第298話 “選ばれしもの”の訪問・その4
「わかりません。お二方も拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい!」
「もちろんだ!……です。」
敬語を使い慣れていないのが分かる男女の双子が、“選ばれしもの”の前にやって来た。
オーディアが再び手をかざすと、今度も弓神と闘神ではないが近い者と出た。
「このお二方も同じなようです。弓神と闘神ではないが、それに近い者であると。」
「少なくとも、“ななつをすべしもの”は彼らではないということですね。」
「英雄ではない……、だが英雄に近しき存在が3人も現れたとなると、英雄は本来このように、成長していくものなのではありますまいか?彼らは英雄候補者と言えるでしょう。」
「その意見に異論はございません。エザリス王国の3名を英雄候補者と認め、研鑽により本当の英雄になることを祈っております。」
「ありがとうございます!」
「あんが……、ありがとうございます。」
「光栄に存じます。」
男女の双子、そして白いドレス姿の少女がそれぞれ頭を垂れた。
「では、ゴザ・ケイオス・バイツウェル3世殿下及びお三方に、我ら“選ばれしもの”7人からの祝福を授けましょう。」
“選ばれしもの”がゴザ・ケイオス・バイツウェル3世に近付き、玉座に腰掛けたままの頭上に、かわるがわる祝福を授ける。
そして、白いドレス姿の少女、男女の双子にも、全員が祝福を授けた。
「神の授ける祝福と同じとは参りませんが、我ら7人もの祝福です。」
「やんごとなきその身を、神がお守りくださるでしょう。どうぞ世界をお救いくださいますよう、祈っております。」
白いドレス姿の少女と、男女の双子は、その身に新たな力が宿ったことを感じ取っていた。それほどまでに強力な祝福だった。
“選ばれしもの”の7人は、英雄たちへの祝福を終えて、エザリス王国の国民に惜しまれつつ、その地をあとにした。
よほどのことがない限り、中央聖教会以外で寝泊まりをしないことも、経典にて定められていることだ。教会以外への外出や宿泊をおこなうことが基本ないのである。
前回の訪問時の記録により、“選ばれしもの”は豪華な食事を口にしないことを知っていたゴザ・ケイオス・バイツウェル3世は、船上で食べられるよう果実を土産に持たせた。
その果実を前にして、“選ばれしもの”がテーブルを囲み驚愕していた。
「この果実には、神聖力が宿っております。
食しただけで病も治りましょう。」
「川に流れていた聖水のおかげでしょうね。
おそらくこの国の作物は、すべからくこの状態だと思われます。」
「エザリス王国を我がものとせん、不埒な輩が現れることを懸念しておりましたが、ひょっとしたら、地のものを食した国民1人1人がつわものになっているやも知れませぬ。」
「いずれにせよ、国力に関しては、我らの測り知らぬところです。早速教会に報告し、しかるべき対策を考えていただきましょう。」
帰国した“選ばれしもの”の報告を受け、エザリス王国の現状を知った教会は、予想していた以上の状態に意見が割れた。
「中央聖教会以上の加護に守られている土地など、我らが救う意味があるのでしょうか。
なんならこの国のあり方がおびやかされます。中央聖教会があるからこその我が国。」
「これではどちらが聖地であるかわかりません。エザリス王国に中央聖教会を移すべきという声があがるやも知れませぬ。」
「中央聖教会があることで、不可侵の独立国家として存在する、我が国の存在意義を問われましょう。教会が……揺らぎます。」
「ですが、あくまでも元は忌み地。そこに本拠地を移すなど、抵抗を持たれるのでは?」
「エザリス王国が、穢れなき土地であることを、まずは浸透させるのが先でしょうな。」
「教会の本拠地を移すことまで想像させるエザリス王国を、狙う不敬の輩がわいた際の対応が先でしょう。エザリス王国の国力判定を依頼せねばなりません。」
「それにはリーグラ王国が最適でしょうな。
あれほどの大国、かつ敬虔な信徒の国であれば、他国を蹂躙しようなどとは考えない。
これを機会に友好国となってくれれば。」
「リーグラ王国は、ナムチャベト王国と婚姻を結んだばかりですぞ?ナムチャベト王国は精霊信仰の国。その影響をかんがみると。」
「確かに教会側としては望ましくない。」
「なればルカンタ王国はいかがでしょう。
リーグラ王国に匹敵する大国かつ、敬虔な信徒の国で、政治的しがらみも少ない。
あそこは未婚の王子も複数おります。」
「ルカンタ王国か!確かに!
エザリス王国も王配を探す必要があろう。
これを機会に後ろ盾となってもらえれば、エザリス王国を狙う輩は確実に減る。」
「中央聖教会に匹敵するほどの聖地だ。我ら中央聖教会手動でなんとしても守らねばならん。今度こそ、エザリス王国を守るのだ。
それこそが神の意志にそうというもの。」
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