第300話 ミーニャへの説明
「そ、そうだミーニャ、僕、君にこれを渡したくて来たんだ。」
僕はマジックバッグから、キレイにラッピングされた小箱を取り出した。
「これって……?」
「その……。通信具なんだ。番号を知ってる同士しか通信の出来ない。
ミーニャと少しでも話したくて……。」
「アレックス……。ありがとう。
開けてみてもいい?」
「うん、使い方を説明する必要があるから、この場で開けてもらってもいい?」
ミーニャはラッピングをはがすと、嬉しそうに小箱を手にとって眺めている。
ああ、嬉しそうなミーニャかあいい。
喜んでもらえて良かったな。ミーニャがいくら強くなったと言ったって、今の僕のそばに置くのは危険だもの。
せっかく一緒に暮らせるだけのお金が手に入ったのに、当分そんなのは無理そうだ。だけどせめて話くらいはしたかったからね。
僕はミーニャに通信具の使い方を教える。初めて使うものなのに、ミーニャはすぐに使い方を覚えてくれた。
キャベンディッシュ侯爵家につかえてる母親のマーサと違って、ミーニャは魔道具自体を初めて使う筈なのに、頭いいなあ。
そして僕は、もう1つ大切な話をミーニャに切り出すことにした。僕のそばにいる為に頑張ってくれたミーニャを、待たせることになるんだもの。話さないわけにはいかない。
「ミーニャ……。あのね、大切な話があるんだ。驚かないで聞いてくれる?」
申し訳なさそうな僕の表情を見て、ミーニャがビクッとする。
「大切な話、って……?」
「僕の使命のことなんだ。」
そこで僕は、英雄を育てる使命があるということ、その為に狙われてることを話した。
さすがに僕が半分神さまだって話はしなかった。あまりに突拍子がなさすぎるからね。
「アレックスに、お告げが……。」
すぐには信じられないかと思ったのに、ミーニャは妙に納得した表情でうなずいた。
「信じるわ。だって私に、弓神への転身クエストが発生してるから。」
あ、そういうことか。
「うん。そうだよ。ミーニャにクエストが発生したのも、それが理由なんだ。
ミーニャも英雄候補者の1人だから。」
「私が、英雄候補者……。なら、私が英雄になってしまえば、アレックスと一緒にいられるってことね?」
「え?」
「ミルドレッドさん、クリスタルドラゴンでしたよね?私に、あなたの鱗をわけてください。私、弓神になりたいんです。」
「ミ、ミーニャ!?」
真剣な眼差しでミルドレッドさんを見つめるミーニャ。
「駄目だよ!他にも英雄候補者はいるし、君にそんな危ないことはさせられないよ!」
僕は慌てて止めたんだけど、ミーニャは引き下がるつもりがないみたいだ。
僕と一緒にいたいと思ってくれるのは嬉しいけど、そういう問題じゃない。
英雄になったら、魔王討伐の旅に出ることになるんだ。英雄になっておしまいってわけにはいかないんだから。
だけどミルドレッドさんが、
「ミーニャと言ったかの……。わらわは美しいものが好きじゃ。じゃが他にも好きなものがある。それは強い者と、強くなろうとする者じゃ。いいじゃろう。わけてやろう!」
強い風がミルドレッドさんの周囲を覆う。
「こんなところで、ドラゴンの姿にならないでくださーい!」
時既に遅し。突如として現れた巨大なクリスタルドラゴンの姿に、遠くからでもそれに気が付いた人々の悲鳴が聞こえる。
「ぼ、僕の持ってる鱗を渡しますから!
早く人間の姿に戻ってください!」
「なんじゃ、素直にそうすればよいものを。
ミルドレッドさんが人間の姿に戻る。
僕は慌てて時空の扉を出して、ミーニャとミルドレッドさんを中に押し込めた。
これで誰かがやって来ても、僕らの姿を見られることはない。
僕は改めてミーニャに向きなおる。
「ミーニャ、英雄になるっていうのは、そんな簡単な話じゃないんだ。魔王討伐に向かうことになるんだよ?それをわかってる?」
「でも、それはアレックスも行くことになるんでしょう?戦える力があるのに、アレックスが危険な目に遭うのを、黙って見てろって言うの?私そんなの嫌だわ。」
ミーニャは強い眼差しで僕を見る。
「私にも、アレックスを守らせて欲しい。
私が英雄になれると言うのなら、私は英雄になって戦いたいの。」
「……わかったよ、ミーニャ。だけど、英雄候補者は他にもいるから、その人たちにも英雄になって貰うつもりでいるんだ。」
ミーニャはコクッとうなずいた。
「今回は、英雄も勇者さまも聖女さまも1人じゃないんだ。その人たち全員で、魔王討伐に向かうつもりでいるんだよ。その人たちと同じ力が持てなければ連れて行かない。」
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