第292話 王室御用達の威力

「はい、もっとも100%に近いものを、純金とされているのでしたね。」

「そうです。ですが、あなたさまがお持ちのこれは、本当の意味での100%だ。」


 まあ、僕がスキルで金だけを抽出してるからね。混ざりものなんて入る余地はないと思うよ。100%なのも当然のことだね。


「いったいどのような職人を見つけられたのですか?これは産業革命と言ってもいい。」

「そこはまあ、秘密ということで。」

 僕らそれとなくごまかした。


「しかし、どちらでこれを?殆どの金鉱山は所有者が決まっております。これだけの量の金塊が作れる鉱石を買い付けた場合、我々の耳に入らないのが不思議なのですが。」


 新たに金鉱山を見つけた場合は、税金の関係から、国に申請を出す決まりがあるんだよね。こっそり掘ったら、脱税ってことになって、領地の貴族もろとも罰せられるんだ。


 買い付ける場合は、別に申請はいらないけど、大量に取引する客のことは自然と噂になるものだ。だから不思議なんだろうね。


 それに鉱山は貴族の領地に属するものだから、あまり力のない貴族がそれを持つのを王室が嫌がるんだ。どうにかして手に入れようと、王室が画策してくることもよくあるよ。


 だからこれだけの金塊が作れるだけの金の取り引きを、大商人の耳にも入れずに、新参者の商人が行えるんだとしたら、それはおのずと新しい金鉱山の出現を意味する。


 僕がどこと取り引きをしているのかが、おそらく気になってるってところだろうね。国外から仕入れたとしても、耳に入るからね。

「実は海底鉱山を見つけたのです。」


「海底鉱山?最近金が出ると噂の、あれですか?テイマーたちに潜らせているという。」

 やっぱり耳が早いね。僕も最近知ったことだけど、当然知ってると思ったんだ。


「はい。ご存知の通り、海底のものにはどこの国の所有権も存在せず、税金もかかりません。──僕はそれを手に入れたのです。」


「海から金の含有量の多い鉱石が、多数見つかったことは聞き及んでおりましたが、海底にこれだけの金塊が取れる金鉱山があったとは……。先見の明がおありなのですね。」


「新参者は今まで開拓されていなかった場所に手を付けなければ、チャンスを拾えない。

 僕はただ、それを実践したまでです。」


「純度100%の純金、質の高い巨大なサンゴをいくつも手に入れることが出来る。

 ……アレックスさま、卸商人になりたいのだとおっしゃいましたね。」


「はい。僕は正々堂々、リアムに会える立場になりたいと思っているのです。その為には今の僕には、キャベンディッシュ侯爵家に出入り出来る卸商人になるしかありません。」


「卸商人になるには、商人ギルドに参加して10年以上の商会の会頭が2人以上、または30年以上の会頭1人以上の推薦と、商人ギルドの副ギルド長以上の推薦が必要です。」


「それと貴族の推薦も必要だと聞きました。

 あとは自分の商会を作ることだと。」

「はい。貴族の家にも頻繁に出入りし、王宮にも出入りするのが卸商人ですから。」


「簡単に許可を出しては、それらの出入り先が危険になる、ということですね。」

「情報を盗み出すには、出入り商人と侍女を狙え、昔から言われていることです。」


 普通の商人と比べて、卸商人は商人同士をつないで流通経路を握ったり、王宮や貴族の屋敷にも定期的に出入りする。


 もちろん高位貴族は服なんかを店で買わずに、商人の店から仕立て職人を呼びつけるから、卸商人でなくても出入りすることはあるけど、頻繁に入るには信用が大切なんだ。


 卸商人になれば、自分が扱っていない商品も、仲介役として間に噛むことで、手数料を手に入れることが出来る。


 専門の商品を持たずに、仕入れをおこなって販売している商人からしたら、卸商人はもっとも憧れる立場だろうね。


 当然自分のところで作っている商品があれば、他の商品の流通に乗せて運べる分、経費も安く済むし、店舗を持つ商人に卸すから、自分で売らなくてもよくなるからね。


「アレックスさま、私はアレックスさまを、卸商人として推薦したいと思っています。」

「本当ですか!?」


「宝石商人だからこそわかる。これだけのサンゴと純金を手に入れられる商人は、特別なルートと、あなたを信用している職人を持っている。この若さでお見事なことです。」


「あ、ありがとうございます。」

 そう言われると、なんか心苦しいな。

 全部僕1人のスキルの力で、協力してくれる職人なんて1人もいないからね。

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