第290話 人魚の唇と天使の肌
「鏡としては素晴らしいのです。骨董的価値も高いですし、それで実際に取り憑かれたりですとか、そういう人を見た人がいるわけでもないのです。あくまで伝説ですね。」
まあ、そういうことならよくあることかもね。王族の持ち物には、いわくつきや呪いがあるとされるものも多いもの。
「──鏡をご覧になりますか?」
「もちろんじゃ!」
ミルドレッドさんは呪いの鏡を見たいらしい……。怖いもの知らずだなあ……。
災厄級のクリスタルドラゴンともなると、そんな呪い程度、実際にあったところで気にならないのかも知れないな。ミルドレッドさんならそんなの跳ね返しそうだもの。
リッケルトさんは、僕とミルドレッドさんが興味を持ったと知るや、フッと笑うと、店の奥から鏡を取り出してきた。
鏡は枠が銀色の飾り彫りの入った長方形の姿見で、鏡の部分がなぜか真っ黒くて、とても人の姿が映りそうには見えなかった。とってもキレイだけど、なんだか怖いな……。
ミルドレッドさんは嬉しそうにその鏡を覗こうとして、すぐにハッとしたように身を引いた。何か見えたのかな?それとも……。
僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
でもリッケルトさんは、そんなのお構いなしで商品説明を続ける。商魂たくましいね!
「アレックス、わらわはこの鏡が気に入ったのじゃ!これを買ってたも!」
「ええ?ほんとに買うんですか?」
これを買うってことは、僕の家に呪われた鏡があるってことになるんだけど……。
だけどミルドレッドさんの気に入ったものを買うという約束だし、これがどうしても気に入ったのなら、仕方がないかあ。
「じゃあこちらを購入します!」
「ありがとうございます。ただいま大金貨1枚以上の商品をご購入のお客様には、人魚の唇か、天使の肌を差し上げております。
よろしければどちらかお選び下さい。」
「人魚の唇?」
「天使の肌じゃと?」
なにそれ?
リッケルトさんがいったん奥に引っ込んだかと思うと、柔らかい布に乗せた宝石をうやうやしく運んできた。
真っ赤な宝石がはまったペンダントと、ピンクの宝石がはまったペンダントだ。
「こちらはサンゴという、海でとれる動物を加工したものになります」
「動物!?動物が宝石になるんですか?」
「はい。長らく植物だと思われておりましたのですが、近年魔塔の賢者の研究により、動物であることがわかりました。」
「つまりは一見すると植物のような動物、ということでしょうか……?」
「はい、その通りでございます。」
宝石業界では、真っ赤なものの上質なものを人魚の唇、ピンク色のものの上質なものを天使の肌、と呼ぶのだと教えてくれた。
海で取れるのなら、僕にも出せるね!
これは新たな商売のタネになるよ。
僕宝石には詳しくないから、こんなものがあるだなんて全然知らなかったや。これだけでもここに来た価値があるってものだよ!
キリカ!サンゴって、抽出して出すもの?
【回答、サンゴは動物の為、生命の海から普通に取り出すことが可能となります。】
それなら大量に取れるね!
サンゴの市場価値を調べなくちゃ!
サンゴの最高額を教えて?
【回答、20ナイガで小白金貨15枚の取り引き記録があります。あくまで素材の状態ですので、市場価値は更に高まります。】
20ナイガで小白金貨15枚!?20ナイガなんて、5歳くらいの子どもの体重だよ?そんな大きなものまで取れるんだ!
次の商売は宝石商人に決まりだね!
でも、それってどこで取り引きされるの?
【回答、サンゴオークションとなります。
サンゴは専門の漁師が参加するオークションにてその価値が決まります。
あちこちで開催されていますが、このあたりですとアザルド商会が主催しています。
参加する為にはアザルド商会で事前参加申請をおこなうとよいでしょう。】
アザルド商会は知ってるよ!
早速帰りに申請しに行こうっと!
ミルドレッドさんは人魚の唇を選んで喜んでる。やっぱり女の子だね。
鏡は自宅まで送ってもらうよう頼んだ。
お値段は脅威の大金貨3枚。王族にゆかりのあるもので、骨董的価値もあるのなら、これでも安いほうなんだよね。
やっぱり呪いがあるぶん、お安いのかな。
まあ、鏡としては当然、ありえないくらいお高いんだけど、ミルドレッドさんには僕らの家を守ってもらっているからね。
追っ手から身を隠す為の護衛費だと考えれば、そんなに高い買い物でもない。冒険者をどれだけ雇ったって、ミルドレッドさんの認識阻害魔法よりも安心して寝られないもの。
ミルドレッドさんが嬉しそうだし、まあいいか。僕はそのままミルドレッドさんを連れて、アザルド商会の門を叩いた。
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本日2本目投稿。
小白金貨で1億5千万設定ですが、実際それに近い金額で売れたサンゴがあったりします。(素材原価で)
ジジイ同士のラップバトル1年ぶりに新作来ましたね!
晋平太さんの動画までセットで楽しみにしています。
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