第289話 呪われた鏡

「秘匿通信になるわけですね?」

「そうさ。相手も番号を憶えているか、登録しておく必要があるよ。」

「この大きさで海外通信可能なんですね。」


「まあね!ここまで小さく出来るのは、ナムチャベト王国広しと言えども、あたしくらいのもんさね!大事に使っておくれよ。」

「はい、ありがとうございました!」


 ロニ茶の仕入れのあても出来たし、これからますます商売が広がっていくぞ!

 最初の通信具の登録相手は、テストもかねてスカーレット嬢とおこなった。


 無事通信出来ることがわかって一安心だ。

 お母さんの親戚と連絡がついたら、通信具で連絡をくれることになった。


 次に登録したのは、ペルトン工房のペルトン工房長だ。これはもともと番号を聞いてあったのと、ペルトン工房長との連絡用にもともと通信具をお願いしたからだね。


 ペルトン工房長に通信を入れて、通信具を無事購入出来たことを伝えると、化粧品の需要が高過ぎて、抽出した水が足らないのだと言われた。明日届けることを伝えて切った。


 次にカーリー嬢。彼女にも連絡先を聞いてあったんだ。僕の化粧品の為の、重要なパートナーだからね。連絡を入れると、妙に、というかいつもかな。テンションが高かった。


 化粧品が人気過ぎて、貴族や王宮からも大量の引き合いが来てることを知らされた。

 1番驚いたのは、オフィーリア嬢の大祖母である、先代王の母君からの注文だ。


 普段なら、王室御用達になれるのは、特定の貴族が作ったものや、大商人がつくったものと決まっているのに、僕の化粧品に王室御用達の看板を掲げる許可がおりたという。


 ──王室御用達!!これは凄い価値だよ。

 海外に売る際にも、やっぱり自分の国のではないとはいえ、王室御用達が掲げられている商品は、付加価値が高いぶん強いんだ。


 僕はこれでキャベンディッシュ侯爵家に出入り出来る、卸商人への道に一歩近付いたことになる。王室御用達ともなれば、商人ギルドの推薦が貰えることになるからね。


 あとは僕に卸商人のやり方を教えてくれる商人を探すだけだ。僕はホクホクしながらミルドレッドさんを伴って王都へと向かった。


 王都の家具屋さんは5階建ての豪華な建物で、ミルドレッドさんはひと目見て建物が気に入ったみたいだった。


 鏡売り場は4階だったので、魔道昇降を使って4階へと上がる。さすが下位貴族も来る王都の店だね、アルムナイの建物は、4階建てでも階段しかないから大変なんだ。


 売り場は広めに取ってあって、照明も明るく、商品が見やすいように工夫されていた。

 店員さんたちが、おそろいの仕立ての良い制服に身を包んで背筋を伸ばして立ってる。


 きちんとネームプレートをつけて、誰が誰だかわかるようになっているのも、特徴のひとつかも知れない。平民向けの店には絶対ない仕様だ。みんな誇らしげに働いている。


 全員なぜだか見た目がいいよね。お気に入りの店員さんなのか、下位貴族のマダムが、嬉しそうに店員さんに話しかけているね。


 そう言えば昔、父さまと貴族の集まりに行った時に、店員にすすめられて、やたらと無駄なものを妻が買ってきて弱っておりましてな、とこぼしてる人がいたっけなあ。


 それってこの店で買ったのかもね。

 カッコいい店員さんに気に入られたくて、上得意になってるのかも。貴族のマダムはそういう遊びが好きだからなあ。


「気にいるものがないのじゃ〜。

 どれもこれも、当たり前過ぎるのう!」

 ミルドレッドさんがつまらなそうにそう言った。どれも素敵に見えるけど……。


 ドラゴンのセンスからすると、人間の品物は美的感覚が違うのかな?いや、でも、店員さんたちにはテンションがあがってるみたいだし、単にイマイチってことか。


「お嬢さま、お気に召すものがございませんでしたでしょうか。」

 胸に手を当ててうやうやしく言ってくる、30歳前後の黒髪の店員さん。


 ネームプレートには、リッケルト・エヴァンスと書かれていた。

 他の店員さんたちと制服が違うのは、この人が少し偉い立場の人だからなのかな?


「よろしければ、珍しいものをお目にかけたいと思います。14代ドッパーナ王国王妃が使っていたとされる、呪われた鏡です。」


「──呪われた鏡?」

「面白そうじゃの!」

 ミルドレッドさんは興味を持ったみたい。


「常に美しくありたいと願ったドッパーナ王国王妃が、深夜に美しい者が鏡に映ると、その姿を奪うとされています。」


「そんな恐ろしいいわくつきの鏡が、なぜこの店にあるのですか?」

 僕は思わず首を傾げた。なんでいわくつきの鏡を、貴族も来るような店に置くんだろ。

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