第279話 ダンジョンボスがいないとどうなるの?

「ミルドレッドさん、お力は是非ともお借りしたいので、一緒には暮らさせていただきますけど、くれぐれもおかしなことはしないでくださいね?共同生活のルールです。」


「うむうむ!嫌よ嫌よも好きのうち、というやつじゃな?一緒に暮らすのが楽しみじゃ!

 美しいわらわが毎晩添い寝してやるでな。

 アレックスも楽しみじゃろう?」


「……わかってないですね。」

 ほんとにだいじょうぶかな?まあ、使役はしたわけだから、いざという時は強制的に言うことを聞かせられる筈だけど……。


 使役した魔物を強制的に従わせる場合は、魔物に痛みが伴うと聞くから、あんまり使いたくはないんだよなあ。

 ──ハッ!まさかそれを見越して!?


 僕の性格を知ってたら、僕がそういうのを嫌がるというのはすぐにわかることだよね。

「人と暮らすのは勇者ぶりじゃ〜。

 楽しみよのう!」


 ピョンピョンとはねて無邪気に喜んでいるように見えるミルドレッドさん。そんなに難しいことを考えてるタイプじゃないかあ。魔物は単純で、ある意味純粋だともいうよね。


 好きなことややりたいことに真っ直ぐだから、人を騙して何かをしようというタイプの魔物は少ないんだって。ミルドレッドさんもどちらかと言うと、そういう魔物に見えた。


「──というか、そう言えば、ミルドレッドさんは、ダンジョンボスなのに、ダンジョンの外に出られるんですか?」


 よく考えてみたら、本来ダンジョンボスはボスの部屋やフロアにいるもので、他の魔物だって特定のフロアにわくものだよね。


 ダンジョンの外の魔物は、縄張りを作ったりして、森だとか、岩場だとか、魔物ごとに好む場所に生息しているものだけど、ダンジョンの魔物は特定のフロアにしかいない。


 なぜか、このフロアには、ゴブリン、このフロアには、ゴブリンとスライム、みたいな感じで、決まった魔物しかわかないものだ。


「それは自然発生した魔物であろ。わらわはもともと外から来て、このダンジョンを根城に決めた結果、こうるさいダンジョンボスを倒して、取って代わった存在じゃからの。」


 マリーアさんたちが言っていたね。ダンジョンはダンジョンボスを倒した後に、ある程度の強さを持った存在がいると、それを新たなダンジョンボスとして認めると。


 過去にそうなった場所がここ、水晶の館なんだって。だけどもともとそこにいたわけじゃないボスは、ダンジョンを自由に出入り出来るなんてことまでは知らなかったよ。


 ならマリーアさんも、ダンジョンの外に自由に出入り出来るってことだね。SSランクダンジョンのダンジョンボスが、自由に外に出てウロウロしてるって考えたら怖いけど。


「やっぱり水晶が良かったんですか?」

「そうじゃな!じゃから、そなたの家でも大きな鏡を用意して欲しいぞよ!わらわの美しい姿を、毎日眺められるようにの!」


「それくらいでしたら用意出来ますが、良ければ素敵な鏡を一緒に買いに行きましょう。

 女性の好みはよくわかりませんので、直接選んでいただいたほうがいいと思うので。」


「そうじゃの!わらわを映す鏡じゃ。

 並大抵のものでは満足出来ぬからな!」

 ミルドレッドさんは嬉しそうに、コクコクと大きくうなずきながらそう言った。


「ミルドレッドさま、ひとつ気になるのですが、ダンジョンボスがダンジョンを離れた場合、どの程度までそのボスをダンジョンボスだと認めるものなのでしょうか?」


 と叔父さんが質問をする。確かに自由に歩き回れるとは言っても、いなくなったら新しいボスがわいたりしないのかな?


「そうさの。退屈で何年かほったらかしておったことがあったが、戻ってみたら別にそのままじゃったから、わらわが倒されぬ限りはわらわがダンジョンボスなのじゃろうの。」


「そうなのですね!新しい発見です。」

 叔父さんが感心してうなずいている。

「それでは我々はいただいた魔物を相手に渡して参りますので、その間お待ち下さい。」


「うむ!はようするのじゃぞ!」

 ミルドレッドさんをダンジョンに残して、僕と叔父さんはエザリス王国へと一旦引き返し、冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドの職員さんに尋ねると、幸いまだ全員の事情聴取が終わってなくて、魔物を失ったというテイマーの2人は、冒険者ギルドの中に残っているとのことだった。


 僕が魔物を駄目にしてしまったことを伝えて、代わりの魔物を用意したので、選んで欲しいのだということを告げると、すぐにテイマーの2人を呼び出してくれることになった。


「あの……。代わりの魔物をいただけると伺って来たのですが……。」

「あれは神の御業ではなく、あなたのスキルだというのは本当ですか?」


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