英雄のクエスト発動

第278話 使役したドラゴンと同居

 そうなんだ?なら、人間にとってのキスは必要ってことなんだね。まあ、キスしない種族だから、ミルドレッドさんにとって、これは別に特別なことじゃあないんだな。


【──ですが特に首は、相手から噛み殺される可能性もある為、よほど信頼している相手でなければ触れさせません。それだけ使役する場合において、強い誓約となるようです。


 ドラゴンがここまでしてくれているのですから、従っておいたほうがよいでしょう。

 頼もしい味方となる筈です。】


 僕は、強い眼差しで微笑みながら僕を見ている、ミルドレッドさんを改めて見た。

 そうか、魔物からすれば、首を差し出すなんて生死に関わることだよね。


 それを僕にさせてまで、従うと言ってくれているんだ。むしろキスするよりも、ドラゴン種にとっては、ずっと特別なことなんだ。


 変なことを考えて、なんか申し訳なかったな。これはミルドレッドさんの信頼の証なんだ。初対面の僕を、首を差し出してもいいくらい、信用してくれるってことなんだ。


 それに僕の意思を尊重してくれるみたいだし、そもそも魔物からしたら、交尾以外のことって、あんまり意味がないのかも。


 よし!決めた!


「わかりました。ミルドレッドさん。

 これから僕の使役する魔物として、よろしくお願いします。」

「うむ!」


 僕はミルドレッドさんに近付いて、その首筋に口付けた。幼い見た目の女の子相手とはいえ、初めてのことだから当然緊張した。


 契約紋が光って次の瞬間スッと消える。これで僕が使役したことになったのかな?

 初めてでよくわからないや。


【なりましたね。新たにドラゴンマスターの称号が加わりました。スキルのドラゴンマスターとは違い、他のドラゴンをも使役しやすくなったり、ドラゴンの能力を特別に引き出すような力はありませんが、オニイチャンのステータスを引き上げてくれます。】


 とキリカが答えてくれた。ド、ドラゴンマスター!?そっか、そういうことになるのかあ。なんか称号だけとはいえこそばゆいな。


「これからよろしく頼むぞよ。

 子どもは何人がいいかの?」

「──!?え?あ、あの、魔物は人間と子どもを作れないんじゃ!?」


「竜人の祖先は、わらわたち、ドラゴン種と人間が子どもを作った結果じゃぞ?

 作れる者もおる!そしてわらわは人間と子どもを作れる種族じゃ!安心せい!」


「お、叔父さぁん!?」

 しまった、という表情で、口元を手で覆いながら、僕から目線をそらす叔父さん。


 確かにそう言われてるけど!

 家庭教師の授業で習ったけど!

 言われてるだけで誰も真実なんか知らないから、僕も作れる筈がないと思ってたけど!


【オニイチャンは、周囲の人たちが危険にさらされるのと、安全になるのと、どっちがいいんですか?私はオニイチャンを守ってくれる人なら、別にいいです。】


 とキリカが言ってくる。

 でも、まあ、それは確かにそうだよね。

 僕と一緒にいることで、特に1番近くにいる叔父さんを危険にさらすことになるんだ。


 だったら、ちょっと女の子に見える魔物と暮らすことくらい、僕が受け入れれば済む話なら、そうしたほうがいいよね。


 正直、確かにミルドレッドさんはとっても綺麗ではあるけど、年齢的にはリアムくらいの年に見えるんだよね。僕がその気になることはないし、ミーニャも許してくれるかも?


 災厄級の魔物を従えていたら、そうそう僕に手出しは出来ないだろうしね。万が一の時には、カナンのシールドだってあるし。


【カナンさんは駄目ですよ。あの精霊は危険ですから。オニイチャンがあの人を好きになったら、いくら半神半人とはいえ、死なないとは限りませんからね?】


 だいじょうぶだよ、そこは安心して。

 別にカナンを好きになったりはしないからさ。僕にはミーニャがいるんだし。


【ミーニャさんと言えば、最近ちょっと強くなったみたいですね。弓使いから、上級弓使いにスキルが変化したみたいです。】


 え!?そうなの?

 けど、前から冒険者のヒルデと違って、ミーニャはまだスキルが判明したばかりだよ?


【ちょっと予想以上のスピードです。

 彼女にも、鱗を渡してもいいと思います。

 もともと英雄候補でしたし。】


 うーん……、僕、ミーニャには危険な目にあって欲しくないなあ……。もともと戦いたいと思ってる人に、渡したいなって思うよ。


【彼女がオニイチャンを守るつもりがあるのなら、ちょっと見直してもいいかなって思ったんですけど、オニイチャンがそういう考えなら、わかりました。】


 うん、ごめんね。

 教えてくれてありがとう。

 それにしてもミーニャ、頑張ったんだな。

 スキルが分かってそれ程経たないのに。


────────────────────


叔父さんにしては珍しく、やってしまった笑  


竜人とリザードマンは、ドラゴンと人の間に出来た子どもが、魔物と人に分かれたものと言われていますが、実際、ドラゴンと子どもをつくる人が現代にいない為、知識としてそう言われてはいるが、半信半疑に思われている、というのが現状です。

叔父さんも知識として知ってはいましたが、信じていなかったんですね。

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