第274話 喋るドラゴン
「そうか、それなら良かった。」
「良かった?なにが?」
ホッとしたような表情をうかべる叔父さんが不思議で、僕は首を傾げた。
「経験値の分配なんていう、特別な方法で、本来の自分の努力だけでは、簡単に到達出来ないレベルアップの仕方が出来るのに、そんなことまでアレックスがやるんじゃな。」
「ああ、そういう……。
確かにそうだよね。手伝ってはあげられるけど、自分でも頑張ってもらわないと。」
「いや、俺が気にしているのは、そういうことじゃない。」
「そういうことじゃない?どういうこと?」
「神さまたちは、人間にはもともと英雄に変化する力を授けてあると言っていただろ。」
「うん、そうだね?」
「なら、経験値にしたって、もともと自力で到達出来ない数値じゃあない筈なんだ。」
「あ……。」
そうか、僕は吸収した経験値を渡していたけど、もともとみんな自力で英雄の可能性が出た人たちだ。それに実際ヒルデは自力で中級片手剣使いに変化したわけだしね。
「それなのに、まさか経験値の配布なんていうやり方が出るとは思わなかった。それがあるからって、ぜんぶアレックス頼りなのか?
それっておかしいだろう?」
「確かにそうだね……。」
経験値を分配したのは必要にかられてだけど、叔父さんに言われなかったら、そこを考えなかったかも知れないな。
「俺が思うのは、経験値の配布は、もともとある程度の数値を達成することによる条件解放の為に、もしくは到達しきれない最後の追い込みに使うものなんじゃあないかとな。」
「──条件解放?」
「スキル経験値と武器クラス使用経験値の合計が100万で剣聖に変化するんだろ?なら他にも隠された変化の条件がある筈だ。」
「あるよ!ヒルデの時にわかったんだけど、片手剣以外を使用した場合、そこに加算ポイントが加わるから、経験値は下がるけど、スキル経験値は大幅に上がるんだ!」
「なるほど?それで俺は中級片手剣使いにスキルが変化したというわけか。アレックスにクエストが発動しなければ、解放条件がわからない理由も恐らくそれだろうな。」
「僕がいなかったら、ヒルデを中級片手剣使いにする為の方法もわからなかったよね。
そういうことなんだね。」
「クリスタルドラゴンの鱗で防具を作るという解放条件は、今のレベルの人たちには、そもそも手に入れられることが難しいから、簡単にはわからないことだろうからな。」
「それに僕なら手に入れることが出来る。
そこをほんの少し手助けして、解放しやすくしてあげることが役割ってことだね!」
「世界に必要なことではあるが、何もしないでレベルだけ上がるんじゃ、体もついてこれないだろうしな。力は自分で掴み取ってこそ意味がある。そのための苦労は大切だ。」
「うん。僕の渡した経験値は、回収も出来るから、もしもこの先頑張らない人が現れることがあったら、回収も考えないとね。」
「そうだな、それがいい。」
なんとなく頭の中の靄が晴れたような気がする。経験値を渡せることで、僕はたくさん手助けしようと考えてしまっていたけど、それは本来必要のないことなんだな。
「なら、とりあえずクリスタルドラゴンのところに直接向かおう。ダンジョンボスはダンジョン内のすべての魔物を支配する存在だ。
頼めば魔物を貰えるかも知れん。」
「捕獲しなくてもいいってこと?」
「意思が通じる上に、お前を待っていたというのなら、そうしてくれる可能性は大いにあるな。出来るのならそのほうが話が早い。」
「わかった。1度中に戻って、クリスタルドラゴンのところに直接向かおう!」
僕と叔父さんは603番目の扉に戻ると、1度扉を閉めて、再び扉を開けた。
クリスタルドラゴンのいるところ、と考えて扉を開けると、たくさんの巨大な水晶に囲まれて、白銀のドラゴンが地面にその身を横たえて眠っているみたいだった。
「凄い……。なんて綺麗なんだろう……。」
「ああ、凄いな……。」
限りなく聖獣に近い存在と言われるだけあって、魔物なのに神聖さすら感じるね。
クリスタルドラゴンのいる水晶の壁は、まるで氷の祭壇のように見える。SSランクダンジョンのボスに相応しい佇まいだ。
クリスタルドラゴンが僕らの声にパチリと目を覚ますと、グワッとその体を持ち上げて立ち上がる。大気が震えてるみたいだ。
ほんの少し動いただけで、ダンジョン内の空気が変わったように感じる。僕はドキドキしながらクリスタルドラゴンを見つめた。
「綺麗じゃと!?やはりそう思うかの!わらわは美しいじゃろう!そうじゃろう!」
ドヤッて感じに、クリスタルドラゴンが笑ったような気がした。
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