第266話 あの時、地上では。その1

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「……シャーリー、怯むんじゃねえぜ。」

「当たり前よ兄さん。こんなのを放っておいたら、すぐに町の人たちにも被害が出るわ。

 だけど……どうしてなの?」


 クロッグス兄妹の目の前に、巨大な魔物が立ち塞がっている。──スフィンクス。その名を知りこそすれ、見たことなどない。


 おまけにダンジョンスタンピードを起こしたかのような、無数の魔物たちが暴れまわっている。既に近隣の住人たちは避難させ、近くの冒険者総出でこの場所に集まっていた。


「いったいどこのダンジョンから出て来たって言うの?……こんな魔物がいるダンジョンなんて、聞いたこともないわ。」


「新しくわいたのかもな。泣き言を言ったって仕方ねえさ。こいつらは目の前にいる。それだけが事実だ。俺たちでやるしかねえ。」


 金髪の中に一房の赤い髪が、左右対称になるかのように生えている、青い目の双子。妹のほうが少し髪が長い。クロッグス兄妹は最速でSランクに上がったばかりの冒険者だ。


 両親も冒険者で現役のAランク。

 父親が上級剣士で母親が鈍器使いだ。今も離れたところで、父親と母親も戦っている。


 その優秀なステータスを引き継ぎ、クロッグス兄妹は生まれながらにステータスが高かった。攻撃力、防御力、魔力、スタミナ。


 そして兄のアイオロスは、弓使いに必要な命中率と会心率に影響を及ぼすステータスまでもが、異常に高く生まれてきていた。


 それは俊敏性と、特殊なステータス確認スクロールでしか分からない器用さにより決まる数値だ。通常のステータス確認スクロールは器用さやスタミナを見ることが出来ない。


 現役冒険者の両親が、自身のステータスを引き継いで生まれていることを期待して、双子に使用して確認した結果、期待以上の数値で生まれていたことが分かったのだ。


 それに加えて必中のスキル。弓使いは自身のレベルが上がるまで命中率が低いのが通常だが、必中のスキルにより、アイオロスは100%の確率で弓矢を当てることが出来る。


 またステータスにより、会心率も高い。

 最速Sランクも当然の結果で、エザリス王国の冒険者の中でも期待の星だ。


 また妹のシャーリーも負けてはいない。

 兄のアイオロスと同様、高いステータスと会心率を誇り、また身体強化と移動速度強化のスキルが拳闘士としての力を高めている。


 にもかかわらず、目の前の敵は見えない何かが弓矢を弾き、シャーリーの一撃必殺の拳をも跳ね返し、一切の攻撃が通らなかった。


 反射なら魔法のみを跳ね返すものだ。弓矢や拳を跳ね返すスキルなど、聞いたこともない。どうやって倒せばよいのか分からない。


「……サア、我ガ問イニ答エヨ。宵闇ノ中ニコソアリ、太陽ヨリモ赤ク、高キニ流レ、ソノ内ヲ繰リ返シ熱キモノトハナニカ。

 30……、29……、28……。」


 先ほどからこうして質問を繰り返し、カウントダウンが始まる。答えられないと、0になると同時に、レーザーが放出されるのだ。

 そのレーザーに何人も仲間がやられた。

 

「それがなんだってんだよ!

 一撃必中!!」

 アイオロスが弓矢を放つも、それはまたしても見えない壁に阻まれてしまう。


 そして再びレーザーは放たれ、スフィンクスは同じ質問を繰り返した。

「あんなの、どうやって倒せっていうの。

 どうしたらいいのよ……!!」


 集まった冒険者は、Sランクが自分たちを含めて7人。Aランクが32人。Bランクが71人。Cランクが219人。

 総勢329人の大軍勢だ。


 ダンジョンスタンピードに対応するには、これでも少ない方ではあるが、この近くの本来のダンジョンに対応するのであれば、じゅうぶんな戦力の筈であった。


 スフィンクスももちろんだが、Bランク以上の魔物の数が多すぎる。Bランクの魔物1体につき、Cランクで4人は必要だ。


 回復魔法使いだけでなく、攻撃参加も可能な、貴重な聖魔法使いまでもが参戦してくれていたが、もはや攻撃に魔力を回す余力はなく、回復するだけで手いっぱいの有り様だ。


 ポーションやスタミナ回復薬なども多数持参していたが、何より終わりの見えない戦いに心を折られ、ランクの低いものたちから疲弊し、倒され、戦線を離脱していった。


 領地をおさめる貴族の屋敷に助けを求めに行った筈だったが、応援が来るような様子もなく、また伝令担当も戻って来ないことが、戦力の減りつつある冒険者たちを焦らせた。


「──ぐああっ!?」

「父さん!?」

「父さん!!」


 アイオロスとシャーリーの父親が、その腕をレーザーでなぎ払われ、武器を持つ腕を切り落とされてしまう。クロッグス兄妹とその母親は、慌てて父親のそばへと駆け寄った。


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この作品と、こじらせ中年と、まもののおいしゃさんを、カクヨムのコンテストに参加させてみました。


正式なコンテストに参加するのは初めての試みです。


入賞は難しいかも知れませんが、目に止まる確率が増えるだけでもありがたいことです。


(過去の代表作であるスキルロバリーはまだ改定中の部分が多いことから、今回は見送らせていただきました。)


今後とも応援よろしくお願い致します。

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