第267話 あの時、地上では。その2
「はやく!はやくくっつけてくれ!」
アイオロスは聖魔法使いに懇願したが、
「さすがに無理だ、そんな風に断面を焼かれていては、……もとには戻せない。」
「そんな……。」
命こそ助かったものの、冒険者としてはもはや引退する他なかった。
ランクこそ抜きはしたものの、いつまでも強い冒険者だった父親のこんな姿は、アイオロスとシャーリーにはショックだった。
「──2……、1……、0。」
ハッとした時には既に遅かった。スフィンクスのカウントダウンは終わり、無常にもレーザーがこちらに向かって放たれた。
「終わりだ……。」
父親がポツリとつぶやいた。
「クソッ!クソッ!こんなことって!
もっと力が!力があれば!!」
「あんたたちはよくやってくれたわ。
自慢の子どもたちよ。」
「母さん……。」
最後を惜しむように、しゃがんでいる夫と子どもたちを抱きしめてくる母親。
シャーリーは泣いていた。
その時、まばゆい閃光がクロッグス家の家族たちの周囲を包みこんだ。てっきりレーザーの光だと思い、アイオロスもシャーリーもギュッと目を閉じた。だが、何も起きない。
「天国って、こんなに静かなのか……。」
「死んだんだよな?俺たちは……。」
「違うわ!兄さん、父さん、見て!!」
シャーリーの言葉に、アイオロスと父親が目を開けると、スフィンクスは断末魔の声を上げながら、その身が水分を失ったように乾いていき、地面に素材を残して消えた。
まるでダンジョンの中にいるかのようだ。
本来ダンジョンの外では、剥ぎ取りでしか素材を手に入れることは出来ない。こんな不思議な現象は見たことがなかった。
ここがダンジョンの中ではないことを示すかのように、スクロールはドロップしていない。見れば他の魔物たちも、同様に干からびて、素材を残して次々と消えていく。
「いったい何が……。」
「あなた!腕が!!」
「な、治ってる!腕が……。」
地面に倒れていた冒険者たちも、次々と復活していき、歓声を上げていた。
「助かった……、のか……?」
まだその実感はわかなかった。
だが確かにあれほどいた魔物たちは、すべてその姿を消し、それが夢でない証拠に、地面に素材をドロップしている。
「おい、凄いぞ!とんでもないレアアイテムばかりだ!武器や防具まである!」
「触るな!それは俺が戦っていた魔物だ!」
ドロップした素材や、武器と防具をめぐって、冒険者たちが争っていると、地面に落ちたもの、手にしていたものまで、すべてが突然、空に吸い上げられだした。
物凄い力で吸い上げられて、誰もそれに抗うことが出来ずに、次々と素材を手放してゆく。すべての素材が空へとのぼりだした。
「見て、キレイ……。」
シャーリーが指差す先には、キラキラと光を受けて輝く魔石たちが、美しい虹を描いていた。誰ともなく、神の奇跡だと言いだす。
「神だ……。神が救って下さったのだ。
そして我々が争わぬよう、素材を回収なさったのだ。神が倒した魔物の素材は神のものだ。我々が手にすべきではない。」
アイオロスとシャーリーの父親の言葉に、冒険者の誰しもがうなずいた。無事ダンジョンスタンピードらしき、魔物の群れが消えたことを報告に町に戻ることにしたのだった。
「アイオロス!シャーリー!帰って来たか!
お前たち、聞いて驚くなよ、なんと王宮から、国王さま直々のお呼び出しだ!!」
冒険者ギルドに入るなり、興奮したようにそう告げる冒険者ギルド長に、アイオロスとシャーリーは顔を見合わせた。
「王宮から、呼び出し……?」
「私たちにですか?」
「お前たちに協力を仰ぎたいそうだ!
これはとても名誉なことだぞ!俺もこの地域のギルド長としてとても誇らしい!」
冒険者ギルド長の案内で、冒険者ギルドの裏手に回ると、ひと目で王宮からだと分かる豪華な馬車が、2人を待ち構えていた。
「アイオロス・クロッグスさまと、シャーリー・クロッグスさまですね。お待ちしておりました。王宮まで御案内いたします。」
戸惑いながらも、誇らしげな両親に見送られ、馬車へと乗り込んだ。乗り心地の良い馬車に揺られて王宮に到着し、初めて来る王宮の中をキョロキョロと見回しながら歩く。
「中でお待ちです。」
従者が恭しく重たそうなドアを開けると、そこには杖を持った幼い美しい少女と、黒髪ロングの三白眼気味の少女が待っていた。
「ゴザ・ケイオス・バイツウェル3世だ。
よく来てくれた。お前たちに頼みたいことがあって城まで呼びたてたのだ。まずはお前たちにこの2人を紹介しよう。」
そう言ったバイツウェル3世は、少女のような美しい顔をした少年と、少し日焼けした感じの肌をした美丈夫を紹介してきた。
「──初めまして、アイオロス・クロッグスさん、シャーリー・クロッグスさん。アレックス・キャベンディッシュと申します。」
ニッコリと他意のない笑顔を向けてくる少年を見た途端、シャーリーがポッと頬を染めたのを、アイオロスは見逃さなかった。
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