第245話 2000年前の真実

「──この者は“星読み”の加護を持つ占い師でな。特に先のことを占う力にたけておるのだ。この国は今、かつてない飢饉に餓えておる。おぬし等も存じておると思うが。」


 星読み!聞いたことがあるよ。かつて未来を占える力を持つ聖女さまにも、与えられていた加護だね。加護があるからといって、どの程度まで見られるのかは人によるけど。


「占い師に食糧難を解決する手段を探らせておったのだが──そこで面白い結果が出た。

 食糧難を解決する手段をもたらす存在が、この地を失われた大地から開放するとな。」


 思わずピクッとしてしまう。

 僕がこの国を救いたいと考えることを、この黒髪の女の人は予言したってことなの?


「そのような存在が現れることを待っておったところ、国中を探らせる中で、おぬしたちが現れたというわけだ。」

 バイツウェル3世が探るように見てくる。


「この地が失われた大地と呼ばれるようになって久しい。地図から消され、他国との交流は途絶え、存在しないものとして扱われてきた。だが我々はこうして生きている。」


 誰もこの国の行く末を知らない中で、それでも手を取り合って生き延びてきたんだね。

 外に出たら最後、戻ることすら叶わないような環境で、それでも頑張っていたんだ。


「……少し人払いをしようか。私はおぬしたちが予言の存在であると確信している。腹を割って話がしたい。この国の歴史を、失われた2000年を、聞いてはくれぬか。」


 僕はコックリとうなずいた。バイツウェル3世が手を上げると、2人の護衛を残して、他の人たちは部屋から出て行った。大臣ぽい人には、出て行く時に睨まれた。


「我らは女神アジャリべさまを信仰する国。悪魔信仰など、当然しておらぬ。だが、密かに信じるものがいたのは確かに事実であったのだ。……それを国の責任とされた。」


「──発言をよろしいでしょうか?

 バイツウェル3世陛下。」

 叔父さんがバイツウェル3世にたずねる。

「よい。申せ。」


「国全体のことであれば、当然国としての責任も取らされましょう。……ですが、なぜ一部の者がそうであったことを、国全体のこととされてしまったのでしょうか?」


「……悪魔信仰に取り憑かれた1人が、我が国の当時の先代王であったからだ。

 そして、その時の聖女に選ばれたのが、その孫娘にあたるフローレンス姫であった。」


 ──先代王が悪魔信仰!!

 それは……国としての責任を追求されて、国全体が悪魔信仰をしていると取られても、ぜんぜん不思議じゃない状況だよ。


 国教は王族が決めるものだ。もちろん1度決まったものを、そうそう変更するなんてことは通常はないことだけど、それを決める力を持つ人が、悪魔信仰を推し進めていたら。


 いずれ国全体に広まると危惧するのは不思議ではないね。だから異端審問にかけられたのか。その可能性の真偽を確かめる為に。

「……先代王はなぜ、悪魔信仰を?」


「悪魔の力は、死んだ者を生き返らせるとされているのは知っているだろう。

 先代王は王子の出産と同時に最愛の妻を失い、心が壊れてしまったのだそうだ。」


「かなりの難産に苦しまれたのですね。」

「そうだったのであろうな。

 まつりごとよりも王妃を取り戻すことに、執着するようになったと聞いている。」


 気持ちはわからなくもないけど……。王子が生まれたんだよね?その子のことは気にかけなかったのかな?むしろ、王妃の死の原因として、王子を疎んじていたんだろうか。


「それを覆す為に、“選ばれしもの”の託宣により聖女に選ばれた王女が、世界を救ったのち、国の名誉をかけて国全体の悪魔信仰を否定した。……だが結果は知っての通りだ。」


 なんて辛い話なんだろうか。お祖父さまは自分たちよりも、奥さんを復活させることに夢中で、国はそのせいで疑いをかけられて。


 世界を救えたことで、そのお姫さまは自分たちの国も救えると信じていただろうに。

 そのせいで殺されてしまったなんて……。


「この中に恐らく、当時の5大大国と、この国に関わらぬ、おぬしたちの知らぬ話があるのだ。もう知るのは我らだけ。……非常に胸くその悪くなる話だ。だが聞いて欲しい。」


 僕らはツバを飲み込んだ。

「フローレンス姫を魔女裁判にかけ、火あぶりの刑に処すよう先導したのが、……かの先代王であったのだ。」


「なぜです!なぜそのようなことを!」

 叔父さんが思わず叫んだ。

「……生贄だ。悪魔の好む、最も上質の生贄はなんだと思う?聖職者なのだそうだよ。」


 バイツウェル3世が自嘲気味に笑う。

 生贄……。奥さんを復活させる為の生贄をずっと探していて、それが自分の孫娘だったから?孫娘だとしても?むしろ孫娘だから?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る