第204話 見えそうで見えないけど見えた

「おお、アレックスどの。遅かったですな!

 セオドアどのも!王宮の風呂に入れるという名誉をたまわれたのも、お二方のおかげ。

 感謝しておりますぞ!」


「ほんとほんと!みんなの憧れだものねえ。

 まさか宴会まで開いてくれて、王宮のお風呂にまで入れるとは思わなかったですよ。」


 向こう側からギギルさんとノーベルさんたちも、お湯をかきわけながらこちらに笑顔でやって来る。ヒナ嬢がお風呂にいることを、少しも気にしてないみたいだ。


「この国の皆さんは、混浴が当たり前なんですね。驚きました……。

 僕はちょっぴり恥ずかしいです。」

 と僕が言うと、


「混浴?」

「誰とです?」

 と、不思議そうに首を傾げている、ギギルさんとノーベルさん。


「え、だ、だからヒナ嬢と……。」

 そう言った瞬間、わはははは!と突然笑い出す、ギギルさんとノーベルさん。


「──僕ぅ、男の子だよぉ?

 ほらぁ。立派な角がついているでしょう?

 女の子にはぁ、角なんてないからねぇ。」


「見たらすぐにわかりますぞ?」

「だよねえ。人間からすると、僕らの男女の違いって、分からないのかなあ?」

 と、ギギルさんとノーベルさんが笑う。


「お、お、お、男の子!?

 だってミニスカートを履いていたよね?

 それにヒナさんはこんなに可愛らしいし、だから僕はてっきり……。」


 エルシィさんの年齢もパッと見て分からなかったのに、性別まで分かりにくいなんて、獣人って不思議な存在だなあ……。


「ああ、洋服のことぉ?綿羊族はねぇ、尻尾が角みたいにかたいからねぇ。普通の服だと着るのが大変なんだぁ。だから尻尾があってもぉ、邪魔にならない服を着るんだぁ。」


 ほらねぇ、と言って立ち上がり、立派な尻尾を見せようと、くるりと振り返ったヒナさんの前の方にも、立派な角がついているのを見てしまった……。ほんとに男の子だ……。


「そ、そうだったんですね、勘違いして申し訳ありませんでした。」

 恐縮する僕のことを、叔父さんまでもが笑ってる。叔父さんは気付いてたんだ!


 気付いていなかったの、僕だけかあ……。

 ヒナさんにドキドキしちゃってたのが、気付かれてないといいけど。


「それにしてもほんとにいいお湯だねえ。」

「それがしには少し熱い気もしますが、夜風がひんやりしていて気持ちがいいので、ちょうどよくなる感じがいたしますな!」


「ほんとぉ、いいお湯ぅ……。」

 改めて湯船に浸かりながら、湯船から出した肩にお湯をかけているヒナさんを見ていると、イケナイものを見ている気分になる。


 これでホントに男の子とか!

 獣人って驚かされることがたくさんだね。

「ちょっと向こうの景色を見てきます!」


 どうしても落ち着かなかった僕は、そう言ってみんなと、というよりも、裸のヒナさんと離れることにした。


 真ん中に大きな黒い岩があるんだけど、その向こうが端っこになってて、高いところからの景色が見渡せた。わあ……。


 ちょっぴり怖い気もするけど、いい眺めだなあ!クローディアさまが言うのも、うなずけるね!僕が景色に見惚れていた時だった。


「──そこに誰かいるのか?」

 鋭い声が聞こえる。ていうかこの声って確か……。──ルルゥさんの声だ!


 あれ?ここにいるってことは、ルルゥさんも男の子ってこと?可愛い女の子2人だと思っていたのに、どっちも男の子とか……。

 ちょっぴりガッカリしてしまった。


「誰かいるのかと聞いている。」

 そう言って、ザブザブとお湯をかき分けながら近付いてくる裸のルルゥさんは……。


 ──違う!ルルゥさんは女の子だ!!

 なんで!?どうして?ここ男湯だよね!?

「よく見えんな……。」


 動揺のあまり声も出せない僕に、メガネがないとよく見えないのか、眉間にシワを寄せて目を細めながら、顔を近付けてくる。


 ちょ、ちょっと待って!見える!

 いくら乳白色のお湯だからって、そんなに近付いたら丸見えになっちゃうよ!


「あれ?アレックスにゃ?

 随分と遅かったにゃりね?」

 後ろからルルゥさんを追いかけて来たのであろう、エルシィさんまで!


 ていうか!隠して下さい!丸見えです!

 ……すっごい大きい……。あのオッパイで35人も育てたんだろうなあって、思わず納得しちゃうくらいには、大きかった……。


「……アレックス……?」

 その名前に聞き覚えがないかのように、ルルゥさんが考え込み出したかと思うと、いきなりガバっと胸を隠して後ろに下がった。


「な、なにゆえ貴様がここにいる!」

「あの……、その……。」

 ここは入り口は別々にゃりけど、中は混浴にゃりよ?知らなかったにゃりか?」


 エルシィさんがシレッとそう言った。

 御庭番衆なんてやってたら、王宮のお風呂なんて入ることもなかっただろうからね。

 知らなくても無理はないよ。


────────────────────


ヒナは男の娘ポジション。


王家の影といい、

御庭番衆といい、

風呂での遭遇率の高い主人公。


やはり忍者に風呂はつきものですかね。

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