第203話 混浴が当たり前の文化

 僕と叔父さん、英雄候補者のみんなは、宴会の前に、先にお風呂に行くことになった。

 木のいい香りのする脱衣所があって、みんなでここで着替えを置くらしい。


 露天風呂の大浴場なんだって!

 異国風の大浴場、楽しみだなあ!キャベンディッシュ侯爵家だと、大浴場はあるにはあったけど、基本父さま専用だったからね。


 僕割りと風呂好きだから、大きなお風呂って大好きなんだあ。この国はお風呂好きな人が多くて、平民も家風呂があったり、銭湯っていう大浴場に通ったりするんだって。


 銭湯っていうのも面白そうだよね!

 銭湯だけでしか飲めない、湯上がりに飲む果物のジュースが、とっても美味しいらしいよ。なにそれ、楽しみ過ぎる!


 叔父さんがあの後少しクローディアさまと話し込んでいたから、僕と叔父さんはみんなより少し遅れてお風呂に行った。


 マジックバッグなんかは、外の従者の人に預けられると言われたから、お願いすることにして、服を脱いで脱衣籠というのに服を畳んで重ねて置いて、木の棚にしまっておく。


「──わあ……!!」

 外は満点の星空だった。露天風呂には大きな丸い月が浮かんでいて、とても明るい。

 少しひんやりした夜風が僕の頬を撫でる。


「ここは秋になるとな、すべての木が紅葉になって、それはそれはとても綺麗で風情があるんだよ。その頃に入らせて貰ったことがあるんだが、あの光景には感動したなあ。」


 と叔父さんが教えてくれる。叔父さんいわく、お湯の上に舞い散って浮かぶ紅葉が、それはそれはとても美しいのだそうだ。


 なにそれ!すっごく見てみたい!

 その頃にもまたここにこれて、お風呂に入れて貰えたらいいなあ。


 足元はひんやりとした、黒い石畳が敷かれていて、とってもキレイだけど、ちょっと滑りそうで怖いかも。


 湯気が立ち上っているお湯は、白く濁っていて、中が見えないようになってるみたい。

 これは温泉っていうんだって。勝手に地面の中から湧いてくるお風呂らしいよ。


 石で作られた枠の上に木の板が通してあって、そこから常に新しいお湯が注ぎ込まれるから、常に冷めることがないんだって。


 源泉かけ流しっていうらしい。こういう場所がスウォン皇国にはたくさんあって、温泉大国でもあるんだって。凄い国だなあ!


 入る前に体を洗うのがこの国でのやり方だと叔父さんが教えてくれて、植物を乾燥させて繊維だけになった物で体を洗った。僕の国じゃ浴槽で体を洗うものだから不思議だな。


 ようやく湯船につかると、のんびりと手足を伸ばした。この温泉は疲労回復や傷を治す効果があるんだって。お風呂に入っただけでよくなるなんて凄いや!


「ああ、気持ちいい〜。」

「──そうか。それは良かった。」

 !!!!!?


 突然クローディアさまの声が頭の上から降って来て、僕は思わず周囲をキョロキョロと見渡した。え?な、な、なんで!?


 すると、ここじゃ、ここ。と、上の方の崖の上から、ヒラヒラと手だけを出して振っているクローディアさまがいらした。


「ここは1番上が王族専用の露天風呂になっておっての。よい見晴らしなのじゃ。

 我が国の誇りを気に入って貰えて嬉しく思うぞ。存分に温泉を楽しむが良い。」



 確かクローディアさまもお風呂に行くと言っていたけど、1人だけ違うところにいたらしい。確かにあんな上の方だと、眺めが良さそうだね!どんな景色なんだろうな。


「セオドアよ、そんなところにおらずとも、やはりこちらに来てはどうじゃ?

 よい眺めじゃぞ?おぬしなら、わしと混浴しても構わぬと言うに。」


「先程お断り致しましたでしょう。

 あんまりからかわんで下さい。」

「カカカカ!相変わらず融通のきかん男じゃの!王族との混浴は栄誉であるぞ?」


 さっき叔父さんがクローディアさまと話し込んでいたのって、この話だったの!?

 こ、混浴って……。一緒にお風呂に入るってことだよね?未婚の男女が一緒に!?


 驚いている僕に、

「この国には混浴の文化があるんだ。

 特に王族が国賓と認めた相手と、一緒に風呂に入ってもてなすというのもあってな。」


 そ、そうなんだ……。国賓扱いとしてなら喜ばしいことだけど、そういう文化のない国の人間からすると、正直衝撃的過ぎるよ!

 そんな話をしていると、今度は、


「あれぇ?アレックスさん、ようやく来たんですかぁ?随分と遅かったですねぇ。」

 ヒナ嬢がお湯をかきわけこちらにやって来る!ちょ、ちょっと待って!裸だよね!?


 裸の可愛い女の子と混浴なんて、嬉しくないわけはないけど、──恥ずかしい!!

 この国の女性たちは少しも恥ずかしくないの!?僕は思わず後ろにのけぞった。

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