第193話 ななつをすべしものに近付きし者
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「どうだ、なにかわかりそうか。」
「それが、よくみえませんな。
まるで霧に覆われた海のようだ。」
目の前の巨大な水晶に手をかざした、白髪に白ひげの男性に、それを後ろから覗き込んでいる若い男が尋ねる。
豪華な室内は若い男性の私室であった。
そこらへんのいっかいの貴族ごときでは、太刀打ち出来ない程の、広さと装飾を誇るこの部屋は、部屋の持ち主が豪商──または王族であるかを指し示すかのようだった。
ほつれ1つない金糸を縫い込んだ、汚れのない白い民族衣装は、それを維持できるだけの世話係が存在することを感じさせる。
「無理に船を進めれば、海にのまれ、その行方を見失う……か。
お主ほどの占い師のスキル持ちでも、ななつをすべしものの居場所はわからぬのか。」
「どうやら認識阻害の魔法がかかっているようですな。本人を直接確認することが出来れば、もう少し詳しく占えますが、どこの何者か分からぬものを占うのは難しいのです。」
「ななつをすべしもの。
おそらく今回のそれは、勇者でも聖女でもない、と。それだけは間違いないのだな?」
「はい。勇者や聖女について占った結果は、まだこの世に存在しないとありますが、ななつをすべしもののに関してはそうではありません。つまりは別の存在であるということ。」
「今までの代々の勇者と聖女など、お話にならん。魔王を倒すことも出来ず、封印しか出来なかった。──だが、おそらくななつをすべしものは違う。」
白髪の占い師のスキル持ちは、その言葉にコクリとうなずいた。
「ななつをすべしものを手中におさめしものが、世界を制することでしょう。」
若い男性はその言葉に身震いする。
「ななつをすべしものの居場所は特定出来ませんでしたが、その力の片鱗を掴むことはようやく出来ました。」
水晶を覗き込みながら、白髪の占い師のスキル持ちが後ろを振り返らずにそう告げる。
「なんと!まことであるか!?」
「──目覚めさせし者。それがななつをすべしものです。勇者や聖女を、いえ、それ以外の勇者に同行する英雄たちすらも、目覚めさせる力を持つ者かも知れませぬ。」
「そうなれば、ななつをすべしものの身柄をおさえれば、自ずと勇者も聖女も、いや、それ以外のすべてもが手に入るわけだな。」
「おそらくそうなるでしょう。」
「欲しい!欲しいぞ!ななつをすべしもの!
……やはり“占者の泉”を手に入れなくてはならぬ、か。──そこならば、お主の力が存分に発揮されるのだな?」
「ラティーヤ王国の占い師一族に伝わる、特別な泉であり、占い師の力を増す効果を持っています。また、そうでないものにも占い師の力を与える。そんな神聖な泉なのです。」
「場所は特定出来そうか?」
「ななつをすべしものの居場所よりかは。」
「ならばこれを使うが良い。」
若い男性は白髪の占い師のスキル持ちに、小瓶に入った液体を手渡した。
「一時的にSP上限解放をし、回復する薬だ。
スキルの力も高まろうというもの。」
「ありがたく。」
白髪の占い師のスキル持ちは、その小瓶の中身を一気に飲み干した。
「──っ……!!なかなかの味ですな。」
「不味かろう。だが効果はお墨付きだ。」
思わず顔をしかめた白髪の占い師のスキル持ちに、若い男性は不敵に笑う。
「示せ水晶よ、“占者の泉”の在り処を!!」
一時的に上限解放された白髪の占い師のスキルは、その具体的な映像までもを、水晶の上に表示させた。
「おお……!これは凄い……!!」
若い男性は思わず笑みをこぼした。
「──出ました。ラティーヤ王国、ソドル南部、ペイリー領地の名も無い山の中、と。」
「でかしたぞ!お前たち、聞いていたな。」
若い男性は室内の入り口近くに待機している、10人の強面の男たちに声をかける。
皆めいめいに腰に独自の武器をぶら下げていた。鞭、モーニングスター、長剣、短剣、双剣、大剣、杖、棍、ナックル、鎖鎌。
みな、若い男性から渡された薬によって、力を増強され、人の3倍の速度と力が出せるようになっている。その力を振るって他人をいたぶることが何より好きな連中だ。
「ラティーヤ王国、ソドル南部、ペイリー領地の名も無い山の中だ。そこで“占者の泉”を見つけ、その場を占拠せよ!そうすればお前たちにもっと力をやろう!」
「よしきた!」
「今度強くなるのは俺だ!」
「抜かせ!この間までは、俺のほうが強かったんだ!また抜き返してやるさ!」
男たちは楽しげに、豪華な部屋を飛び出して行った。飛竜に飛び乗り、それをこともなげに操ると、一気にラティーヤ王国、ソドル南部、ペイリー領地を目指して飛んでいく。
彼らが出ていくのを見送った後で、若い男性は屋敷の地下へと降りて行く。
そこには薄暗い地底湖が存在していた。
「──リャリャクさま。」
若い男性が水面にそう声をかけると、水柱が立ち上り、まるで生き物かのように揺らめいたかと思うと、頭頂部に顔が生まれた。
口はなく、若い男性の言葉に答えることはなかったが、若い男性はリャリャクと呼んだその謎の生命体の言葉が、分かっているかのように話しかけ続けた。
「すべては仰せのままに動いております。
ななつをすべしものの居場所を特定出来るのも、もうすぐかと。奴らにまた力を与えなくてはなりません。あれを下さいませ。」
若い男性がそう言うと、謎の生命体が、腕のように伸ばした水柱から、水滴が垂れてくる。若い男性はそれを恭しく、先程白髪の占い師のスキル持ちや、10人の男性たちに飲ませたものと同じ小瓶に受け取って詰める。
「おお、ありがたき幸せ。」
こんなものを飲まされているだなどと、薬として飲まされている人間は誰も知らない。
「リャリャクさまさえいらっしゃれば、ななつをすべしものを手に入れるのは、そして世界を統べる王者となるのはこの私、──リカーチェ・ゾルマインだ!」
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ついに具体的に迫る魔の手。
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