第192話 特別な方は旧知の間柄

「──特別な方?」

 もうだいじょうぶですよ、と護衛の人がそう言うと、現金輸送馬車の中から1人の上等な仕立ての服を着た若い男性が降りてきた。


 あれ?この人って……。

 淡い茶色のスーツ姿に、フリルタイのついた白いシャツを身に着けた、明るい茶髪の長髪の男性を、護衛の人が紹介してくれる。


「こちら、バイデン銀行を経営している、」

 それを遮るように、男性が髪をかきあげながらポーズを取った。


「いやあ、まいったまいった。

 この僕が乗った馬車を、まさか!よもや!魔物が襲撃するとはね!魔物すらも引き付けてしまう僕!というところか!」


 きっとあの魔物はメスだったのだろうね!などと護衛の男性に話しかけている。

 ……うん、間違いないね、あれは。


「……あの、フィンリー・バイデン伯爵令息ですよね、お久しぶりです。」

 バイデン伯爵令息が僕を振り返る。

 

「君は……。ああ!そうか!思い出したよ!

 アレックス・キャベンディッシュ侯爵令息だったね!交流会以来じゃないか!

 僕に男の名前を覚えさせた数少ない君だからね!もちろん覚えているともさ!」


 実際彼はあの時、僕のことを女の子と間違えて話しかけて来たんだよね。僕は母さま似でちょっと女の子みたいな顔してるから。僕のことを覚えてた理由もそれなんだろうな。


 僕が彼を覚えてた理由は、お察しの通りのこのキャラの濃さからだ。結構ハンサムな人なんだけど、だいぶ変わった人だよね。


 彼がいるということは、ここはナドミン王国ってことか!地図でいうとリシャーラ王国の左隣。うちと同じで海のない国なんだ。


 山を越えた向こう側の国なんだけど、隣国ってことと、塩戦争の時に共闘して以来の友好国だから、貴族同士の交流会が定期的にあって、そこで彼と知り合ったんだ。


 鉱山が多くて住める土地の少ないリシャーラ王国と違って、作物の輸出で生計をたてている国だ。リシャーラ王国とは、相互に輸出し合ってて、いい取引先でもあるね。


「君が助けてくれたのかい?

 ならばお礼をしなくてはね!

 この僕の名折れというものだよ!

 これを受け取ってくれたまえ!」


 そう言って、バイデン伯爵令息は、シャツの片方の袖から、金色の宝石のついたカフスを外して、僕の手にそれを握らせてくれた。


「これを持ってくれば、いつでも君の助けになろう!この僕を知らない人間はいないからね!誰に見せても僕へと話が通じるのさ!」


「ありがとうございます。

 ありがたく頂戴しますね。」

 僕はそれをマジックバッグの中へと入れると、先を急ぐという彼らと別れた。


「また近いうちに会おう!

 キャベンディッシュ侯爵令息!」

「はい、またぜひ。」

 手を振るバイデン伯爵令息にお辞儀する。


 あ、もうキャベンディッシュじゃないって、伝えるの忘れちゃったな。まあ、次に会った時でいいか。まだ一応籍抜けてないしね。


 うまいこと木々に隠れてはいたけど、見えなくなるまで時空の扉を開けられないなと思って、僕が一行を見送っていると、


「──アレックス、そう言えば、このあたりの勇者や聖女たちの候補は検索したのか?」

 と叔父さんが聞いてきた。


 あ!そうか!一応確認しといたほうがいいよね。さっきラティーヤ王国でも調べれば良かったな。次のとこでは必ず確認しよう。


 情報の海さん!候補者がいたら教えて?


【回答、勇者、聖女、賢神、闘神、弓神、獣神、龍神に変化出来うる候補者について。


 現時点で勇者に変化する可能性のある者について。

 ●セオドア・ラウマン。

  勇者に変化する可能性、16.8%。


 現時点で聖女に変化する可能性のある者について。

 半径20リオ以内に該当者がいません。


 現時点で賢神に変化する可能性のある者について。

 半径20リオ以内に該当者がいません。

 

 現時点で闘神に変化する可能性のある者について。

 半径20リオ以内に該当者がいません。


 現時点で弓神に変化する可能性のある者について。

 ●フィンリー・バイデン。

  弓神に変化する可能性、7%。


 現時点で獣神に変化する可能性のある者について。

 半径20リオ以内に該当者がいません。


 現時点で龍神に変化する可能性のある者について。

 半径20リオ以内に該当者がいません。


 以上です。】


 ──7%!?


 今までで、叔父さん以外で1番数値が高いよ!弓使いだったんだ、バイデン伯爵令息って。出会った時には鑑定済みの筈だけど、スキルの話まではしないからなあ、普通。


 ……また近いうちに、お会いすることになりそうですね、バイデン伯爵令息。

 僕は馬車に乗り込む彼の姿を見つめた。


「──うん?」

 僕の視線に気が付いたかのように、バイデン伯爵令息が振り返って微笑んだ。


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ようやく登場、ヒロイン以外の英雄候補者。

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