第191話 78番目の扉。冒険者、アントン・スミス。と賢者の石。

【回答、現在の魔塔の主について。

 時空間魔法を操ることが可能な、人の生死を超越して生きる存在です。

 詳しい年齢については情報がありません。

 賢者の石を集めており、それを差し出せば会ってくれることも、頼みを聞いてくれることもあるようです。】


 ──賢者の石?

 噂にしか聞いたことのない、魔力を増強するという素材だけど、既に強いのに、そんなもの集めてどうするつもりなんだろう?


 何かの研究でもしてるのかな。

 それこそ魔塔の役割って、新しい魔法を生み出す研究機関だというからね。


 ……つまりその人が、あのリシャーラ王国の王宮敷地内の部屋に、認識阻害の魔法をかけたということ?それをリシャーラ王国の誰かが、魔塔の主に頼んだってことだよね?


【回答、認識阻害の魔法がかけられており、現時点での情報が取得出来ません。】


 ……たぶん、そうなんだろうね、きっと。

 いったい誰が、なんの為に?

 いずれレベルが上がれば分かるのかな。


【回答、現時点で取得可能な情報を公開するのみにとどまります。ただし今後のレベルアップいかんで、それが可能になるかどうかについても、現時点では情報がありません。】


 ……出来るかも知れないし、出来ないかも知れないし、今はまだ、情報の海さんにも分からないってことなんだね。


 とりあえず、今の僕にできることをしよう。

 僕は再び腹ばいになって、木こりのアイテムボックスの中に戻った。


 叔父さんに、ラティーヤ王国、ソドル南部、ペイリー領地の名も無い山の中、と情報の海さんが教えてくれたことを伝える。


「ラティーヤ王国か。精霊を信仰し、他国との国交を断絶していると聞く。またずいぶんと特殊な国につながったもんだな。」

 と教えてくれた。


「叔父さんも行ったことがないの?」

「ああ。1度ラティーヤ王国から来たという冒険者に会ったことがある程度だ。」


 冒険者現役時代に各国を旅していたという叔父さんが、行ったことのない国か……。

 ──どんな人たちが暮らしているんだろ?


 次に開けられるのは、78番・冒険者(売りやすい)と書かれた、アントン・スミスさんのアイテムボックスだ。


 一応部屋の大きさはあるけど、お祖父さまのアイテムボックスよりは狭かった。

 ここは普通に叔父さんと入って、壁の前で心のなかで時空の扉!と念じた。


 外に出ると、……誰かが魔物と戦ってる!

 頑健そうな鉄製の馬車の周囲に、たくさんの冒険者たちと、既に倒れた人たちがいる。


 そしてそれに囲まれるようにして、専属の護衛と思わしき、統一された防具と制服の人たちがいる。──銀行の現金輸送馬車だ!


 扉を開けた僕に気が付いて、その魔物──斧を手にしたミノタウロスがこちらを向いたかと思うと、ギロリと僕のことを睨んだ。かと思った瞬間、一瞬で僕の目の前にいた。


「どくんだ!アレックス!」

 叔父さんが僕の肩を掴んで後ろに押しやると、マジックバッグから片手剣と盾を取り出すと、素早く装備して盾で斧の攻撃を防ぐ。


 あまりの素早さに、一瞬反応することが出来なかった。なんて素早く動くんだ!

「……こいつはAランクの魔物だ……!

 スキルなしのお前には無理だ!」


 強引に力押ししようと、振り下ろした斧にそのまま力を込めるミノタウロスと、それを止めつつ、盾で押し返そうとしている叔父さん。どっちの腕も小刻みに震えている。


「アレックス……!腕を切れ……!!」

「──分かった!

 生命の海!水刃!!」


 叔父さんと押し合いしているミノタウロスの、斧を持っている腕に水の刃を当てる。

 突然力を込めていた腕がポロリと落ちたことで、ミノタウロスがバランスを崩した。


 叔父さんが素早くその懐に潜り込んでミノタウロスの腹部を貫いてえぐった。腕と腹部から血が吹き出してのけぞるミノタウロス。

「ブモオオォオオォ!!」

 

 容赦なく連続で切りつけて、あっという間にミノタウロスを倒してしまった。本人は引退したと言っているけど、全然現役バリバリに見えるよ。やっぱり凄いや!叔父さん!


 僕と叔父さんは、ミノタウロスにやられて倒れた人たちに駆け寄って、マジックバッグから出したポーションを振りかけて回った。


「……申し訳ありません。助かりました。」

「この街道にミノタウロスなど、出たことはないのですがね……。」

 護衛の人たちがお礼を言ってくる。


「対ミノタウロスを想定して人を雇っておらず、まったく刃が立たなかったのです。今日は特別な方を乗せていたので、やられるわけにはいかなくて。本当に助かりました。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る