第190話 75番目の扉。木こり。と、魔塔の主のこと。

 だとしたら、レグリオ王国の近衛騎士だった人のアイテムボックスからは、レグリオ王国の王宮にも入り込めることになるね。

 試してみるにはちょっと勇気がいるよ。


 自分の国なら、僕も叔父さんも何度か王宮には足を運んだことがあるし、よほどの場所に出たのでもなければ、用事があるのだろうと思われて、見咎められることはないけど。


 侯爵家ともなると、顔見知りの兵士も多いし、そもそも父さまがリシャーラ王国の魔法師団長の関係で、見学に来たりもしているからね。でもさすがに他国はそうはいかない。


 見つかったら即捕まって、王宮の地下牢に入れられたって、おかしくはないんだ。捕まえた犯罪者で牢獄に入るのは、王族に害をなした者くらいで、一生出られないとも聞くよ。


 それに、先代国王のアイテムボックスから通じていた、あの部屋の主は、いったい誰なんだろう……。あんな扱いを受ける人が王宮内にいるなんて、考えたこともなかったよ。


 まるで隔離でもされているみたいだ。隔離というか、……──幽閉?だよね、あれ。なんだかリシャーラ王国の闇を見た気がする。


 今は考えても仕方がない、と叔父さんに言われて、続けて他のアイテムボックスから通じる扉を確認しに行くことにした。


 次は先代国王のアイテムボックスから、ひとつ戻って、75番目の木こり、と記録しておいたところだ。


 ここはそもそも、僕の胸くらいの高さの、四角いスペースしかないから、部屋って感じじゃないんだよね。


 この向こうに扉をつけるとしたら、この中身をどかしてくぐる感じだ。中身をマジックバッグに移してから、腹ばいになって中に入り込むと、時空の扉!と念じた。


 この大きさでもちゃんと通じるみたいで、大きさに合わせた扉が出来たよ。

 叔父さんにはかなり狭そうだから、いったんアイテムボックスの外で待ってて貰った。


 木こりだからか出たのは薄暗い山の中で、ここがどこかはすぐには分からなかった。

「どこなんだろう、ここ……。」


【ラティーヤ王国、ソドル南部、ペイリー領地の名も無い山の中です。】

 と情報の海さんが答えてくれる。


 えっ。情報の海さん!教えてくれるの!?

 ──さっき王宮で疑問に思った時は、なんでなんにも答えてくれなかったの?


 いつもなら、僕が疑問符をつけて考えたことは、教えてって言わなくても、すぐにいろいろと答えてくれるのに!


【回答、先程の76番目扉の外の部屋には、認識阻害魔法がかけられています。

 他人の時空間魔法に関与出来る、時空の海の効果により、内部に侵入することは可能ですが、本来であれば外から入口が分からなくする魔法がかかっており、また部屋および部屋の持ち主に対する情報を取得することが不可能となっています。


 これは時空の海の効果の対象外の為、情報を得ることが出来ませんでした。】


 そうなの!?情報の海さんでも!?

 こんなことは初めてかも知れない。

 情報の海さんには、なんでも分かるものだと思っていたよ。


 だって神さまが──母さまであるアジャリべさまが、僕に世界の情報を知らせる為、神さまの言葉を伝える為に授けたスキルだもの。


 誰も知らない筈のヒルデのスタイルや、レンジアの成長速度までわかるのに、そんな情報の海さんに分からないって、かなり強い魔法がかかっているのかも知れない。


 今はまだレベルが足らないんだとしても、それでもそれを認識阻害出来るほどの魔法使いなんて、そうはいない。

 それこそ、──魔塔の主の魔法くらいの。


 僕は何度かお見かけしたことのある、リュミエール・ラウズブラス男爵の顔を思い浮かべていた。平民ながら実力で登りつめた、魔法の賢者と呼ばれるうちの1人だ。


 賢者はスキルのひとつなんだけど、全員それに近いスキルを持っているとされている。

 だからあくまでも通称で、実際に持っているのが魔塔の主と呼ばれる人なんだそう。


 賢者はすべての魔法のレベル7が、付与された段階から使用出来る特別なスキルだ。

 特別過ぎてどの国にも属さず、魔塔の中にひっそりと暮らしているという。


 もしも賢神になれる可能性が最も高い人がいるとしたら、僕はこの魔塔の主だと思ってるんだ。なってくれるかは分からないけど、いつかは会いに行く必要がある人だね。


 ……会ってくれるかすら分からないけど。

 各国の魔法師団長は、数年に1回魔塔に行くことになっているから、その時父さまに同行出来ないかな?それが1番早いんだけど。


 今の僕じゃ、魔塔に受け入れてすら、もらえないからね。だけどそんな父さまですら、まだ会ったことのない魔塔の主って、いったいどんな人なんだろうな?

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