第177話 新素材の化粧品

 けど、毛虫の出すものに、そんな肌や髪によいものがあるだなんて知らなかったな。うまく使えば凄いものが出来るかも!だって今まで社交界でそんな話聞いたこともないよ?


 僕は成人と同時に家を出たから、子どもたちを引き合わせる目的の、パーティーにしか参加したことないけど、少なくとも親たちからそんな話題出たことないもの。


 つまりは新発見の新素材ということになるよ。それに僕はたずさわれるかも知れないんだ!これは本当に凄いことだよ!


「でしたら、この水を使ってみてはいただけませんか?美容成分を持つ水です。」

 僕は予めサンプルとして瓶に入れておいた水をカーリー嬢に渡した。


 見本として渡すために、さっき職人ギルドに立ち寄る前に詰めておいたんだよね。

 興味を持って貰わないと始まらないから。


「──美容成分を持つ水?

 そんなものがあるんですの?」

 カーリー嬢が可愛らしく小首をかしげる。

 

「はい、僕が生み出した水なんです。これになにか香料とかを加えて、化粧水や髪によい溶剤が作れないかと思っていたんですが、カーリー嬢となら、もっと凄いものが出来る気がします。お願い出来ませんか?」


「試してみたいですわ!

 それをこちらにくださいな!」

「どうぞ。」


 カーリー嬢は太い円筒形の瓶の中で、僕の水と毛虫から出た成分を、ガラスの棒を使って、グルグルと混ぜ合わせた。


「溶ける……!?溶けますわ!まるでもとから1つの成分であったかのように、グングンと吸い込まれていって、これなら化粧水にも出来ますわ!あとは……。」


 今度は別の毛虫から出た成分を持ってきたかと思うと、それを太い円筒形の瓶に入れて網の上に乗せて、僕の水と混ぜ合わせつつ、弱火で火にかけながらグルグルと回した。


 こっちのほうは、なんだかドロリとした仕上がりだね。ということは、こっちは髪につける溶剤のほうかな?それとも顔にパックするとか言っていたやつ?


「香料はなんにいたしましょう?

 アレックスさまがお選びくださいな。」

 そう言ってカーリー嬢の差し出してきた、香料の見本の小瓶をいくつか嗅がせて貰う。


「僕はこれか好きですね。」

 さわやかなお花の香りに近いものと、柑橘系の果実のようなさわやかな香りのものだ。


「でしたらこれを加えましょう。」

 ポトリ、とそれを1滴、それぞれの瓶に加えては、またグルグルとガラスの棒で回す。


「──出来ましたわ!

 ちょっと試して参りますので、ここでお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい、どうぞ。」

 そう言ってしばらく席を外したカーリー嬢が再び戻って来たかと思うと、──なんとバスタオル1枚の姿で部屋に入って来た!


「凄いですわ!やりましたわ!」

 そのままの姿で、嬉しそうに僕に抱きついて来るカーリー嬢。えええええっ!?


「ちょ、ちょっと、カーリー嬢……!!」

 押し戻そうとしてウッカリ触れてしまったカーリー嬢の肌は、さっきのヒルデを彷彿とさせる、ううん、それ以上の……。


 シットリ、モッチモチで、吸い付くような白い肌。いつまでも触れていたくなってしまう、そんな魅惑的な……。抱きしめないようにする手が虚空を掴む。──痛ててて!!


 突然僕の腕が誰かにつねられた!

 レンジア!?──そうか、まずいよ、これがオフィーリア嬢の耳に入ったら、いつかミーニャの耳にも入っちゃうかも知れない!


「カ、カーリー嬢、その、とりあえず、服を着ていらしてください。」

「あ、そうでしたわね。あんまり嬉しくて。

 ほら、髪もキレイじゃありませんこと?」


 サラリと手ぐしが通るキレイな髪を、カーリー嬢が見せつけてくる。さっき僕が選んだ香料のいい匂いがして、ついドキッとした。


「た、確かに……。」

「この水は、アレックスさまからしか手に入らないもの。私アレックスさまと契約をしたいですわ!一緒に売り出しましょう!」


「こちらこそ!ぜひよろしくお願いします。

 長いお付き合いになりますね。」

 僕は笑顔で右手を差し出した。


「ええ、これからどうぞよろしく。」

 カーリー嬢が右手を差し出してきた瞬間、手でおさえていたバスタオルがハラリと落ちて足元に広がる。──!!!!!


 見、見ちゃった……。またしても女の子の裸を……!!思わず手で顔を覆おうとしたんだけど、カーリー嬢が僕の右手を掴んだままだから、それが出来ずに僕は目を閉じた。


「き、着替えてください!早く!」

「あら、ごめんあそばせ。」

 こともなげにそう言うと、カーリー嬢は僕の手を離して部屋を出て行った。


「ふう……、ビックリひひゃ……。

 ふぇ!?」

 僕のほっぺたを見えない両手が左右に引っ張って、変なふうにしかしゃべれなくなる。

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