第175話 ロイド・ペルトン工房長

「これなら、お客さまは都度注文をすることが出来る。工房は急な注文のたびに予定を組み直さなくてよくもなる。どうでしょう?この方の注文を受けていただけませんか?」


「……あんたんとこがそれでいいなら、うちはそれで構わねえよ。確かにそれなら、こっちも出荷するだけだから対応可能だ。」

「──!ありがとうございます!」


 女の人が嬉しそうに微笑んだ。

 良かった、解決したみたいだね。

「……お前、ずいぶん若いが、商人か。」

 オジサンが僕を見てたずねてくる。


「はい、まだ駆け出しですが。」

「長年の苦労が、こんな単純なことで解決しちまうとはな、目からウロコだぜ。」

「お役に立てて何よりです。」


「俺はロイド・ペルトン。アルムナイのペルトン工房っていやあ、国内じゃちったあ、名の知られた工房をやってる。海外からの仕事なんてのも受けているんだぜ?」


 ペルトン工房!?僕でも聞いたことのある工房だよ!ポーションから魔道具まで、なんでも作れる、最低でも300人以上の職人を抱える、大手工房だという話だよね。


「うちは加工品ならなんでもござれだ。

 もしも頼みたいことがあればいつでも言ってくれ。あんたの頼みなら、多少の無茶も引き受けさせてもらうからよ。」


「その……、化粧品とか、髪につける溶剤とかなんかも、扱ってたりしますか?」

「ああ、注文があればたまに作ってるぜ。

 なんだ、化粧品が作りてえのか?」


「はい、それを作れる職人か錬金術師を探しに来たんです。まだ開発段階なんですが。」  

 先に工房が見つかるなんて!それもこんな大手さんに繋がりができるのは凄いよ!


「うちは開発まではやってねえからな。作れるようになったら言ってくれ。最優先で引き受けるからよ。大量注文どんとこいだ。」

 ペルトン工房長はカラカラと笑った。


 ありがとうございます、と、明るい茶髪のメガネの女性も、笑顔で小さく会釈をしながら、僕にそう言ってくれた。


 ようやく隣が静かになったので、ちょうど候補者がいるのでお会いしてみますか?と職人ギルドの職員さんが言った。


 なんでも研究開発の出来る、錬金術師のスキル持ちの人がいるらしい。

 オマケにちょうど、髪の毛と肌にいいものを研究している最中の人なんだとか。


 その人が研究してる、天然素材を使った美容に良いものが、あと一歩のところで行き詰まっていて、協力してくれる錬金術師か、スポンサーを探してるところなんだって。


「それは助かります。

 その人と僕の用意している素材を合わせたら、いいものが出来るかも知れません。ぜひその人に会わせていただけませんか?」


 分かりました、と言った職員さんがいったん奥へと消えて行くと、しばらくして、1人の若い女の子を連れて戻って来た。


 外ハネの金髪ボブカットに、蝶々のモチーフのカチューシャ。好奇心旺盛そうなキラキラした青い目をした、かなり可愛い女の子がやって来た。そして僕を見るなり、


「あら、マルキチ?

 ──っと、初めましてですわね。

 私はカ……ーリー・タイナーですわ。」

 と嬉しそうに目を輝かせてそう言った。


 マルキチ?なんのことだろう。

 彼女が僕のことをそう呼んだ途端、僕の右手を誰かが後ろからギュッと握ってくる。


 たぶん、レンジアだと思うけど、任務中に対象者に接触してくるなんて、どういうことだろう?別に今、僕の身に危険はないよね?


「アレックス・キャベンディッシュです。

 なんでも、化粧品や髪によいものを研究されているとか?僕もそうでして、一緒に商品を開発してくれる人を探していたんです。」


「それはちょうどいいですわ!私の研究室がこの近くにありますの!よろしければいらっしゃいませんこと?私が開発中のものをぜひとも見ていただきたいですわ!きっと気に入っていただけますの!」


「あ、はい、よろしいんですか?」

「ええ!ぜひぜひですわ!」

 ……変わった話し方をする人だなあ。


 契約するかはともかくとして、まずはカーリー嬢の研究室へと向かうことにして、そのことを職員ギルドの職員さんに話して、職員ギルドを出ることにした。


 僕が帰ると知って、交渉を詰めていたペルトン工房長と、王宮職員の女の人が、立ち上がって衝立から出て来て、挨拶してくれた。


 職人ギルドを出ようとしたところで、後ろからギュッと抱きすくめられて、僕の足が止まる。レンジア、どうしちゃったの?


「どうかなさいまして?」

 先に立って歩いていたカーリー嬢が、不思議そうに僕を振り返る。


「あ、いえ、なんでもありません。」

 僕は腰に回されていたレンジアの腕をそっとほどくとカーリー嬢について歩き出した。

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