情報の海
第127話 海底鉱山の噂
「うーん……、宿よりは、本人の家が用意出来たらそのほうがいいですよね。まずは宿でお願いします。その間に家を探すので。」
「分かりました。購入時のみ、お買い求めの店舗で代理申請が可能ですので、宿の手配をしておきますので、お近くの奴隷商人をおたずねください。以降はご自身で。」
「分かりました、ありがとうございます。」
申請の手数料は小金貨3枚だった。僕はそれも支払って、茶色の髪の男性を見た。
「お、俺に、自分の家が……。」
茶色の髪の男性は、拘束具をはずされてなお、呆然と立ち尽くしていた。
「これからよろしくお願いいたしますね。
アレックス・キャベンディッシュと言います。今はまだ貴族ですが、もうすぐ平民になるので、名前、変わるんですけどね。」
「やっぱりあんた、貴族だったのか……。」
茶色の髪の男性がそうつぶやく。
「元、ですけどね。」
平民は特に、隣の国の貴族の名前なんて普通は分からないからね。僕の名前を聞いてもなにも思うところはないみたいだ。知ってて領地をおさめてる領主の名前くらいだよね。
元貴族である僕も、よその国の貴族の名前までは、交流のない家系は分からないしな。
国内だと勢力図まで含めて、頭に叩き込まされるから、結構大変なんだけど。
「お名前をおうかがいしても?」
「ザックス・ヴァーレンだ。」
「ヴァーレンさん。」
「ザックスでいい。」
「ザックスさん、改めてよろしくお願いいたします。リシャーラ王国で会いましょう。」
僕は奴隷商人の店員さんと、ザックスさんに挨拶をして、店を後にした。
黒髪の男性も間に合うなら買ってあげたいけど、まずは今の店を安定させないとね。
店舗経営自体が、まだ僕の身の丈にあってないんだし。ゆっくりといこう。
僕が叔父さんの家に戻ると、どうだった、と叔父さんが聞いてくる。
叔父さんがお昼ごはんの支度をしていてくれたので、それを食べつつ成果を話した。
料理人と解体職人のスキルを持つ奴隷を買ったこと、家を借りて住まわせるつもりなこと、賃金を支払って、いずれは自由になれるようにするつもりだということを告げた。
「──元犯罪奴隷か。」
叔父さんはザックスさんが元犯罪奴隷だったことが、少し引っかかったみたいで、眉間に少しシワを寄せた。
「そうか。まあ、いいんじゃないか。まあただ、1度俺にもそいつに会わせてくれ。」
と叔父さんは言った。
「あ、うん。わかったよ。早くて12日後にはアタモの町の奴隷商人の館に来るみたい。向こうで宿を用意してくれるっていうから、その間に彼の為の家を探すつもりだよ。」
叔父さんに見て貰って、だいじょうぶだと言ってくれたら安心だよね。叔父さんも僕が元犯罪奴隷といても、安心出来るだろうし。
「それでね?その……、彼の家を借りはするんだけど、その……。」
僕が言い淀んでモジモジしていると、
「お前が独立出来るくらい、じゅうぶんに稼いでいるのは分かっているさ。だが、もう少しここで面倒を見させてくれ。お前がちゃんとした大人になれるようにな。」
と、叔父さんのほうから言ってくれた。
奴隷の家を借りられるなら、なぜ僕が叔父さんの家を出ないのか、と思われてたら……と僕は内心思っていたんだけど。
叔父さんは僕とまだここで暮らしていたいと思ってくれていたみたいだ。まだまだひとり暮らしは不安があるし、もっと色んなことを叔父さんに教えて欲しいと思ってるんだ。
それに、どれだけたくさんお金があったって、家族のいない家に帰るのは、とても寂しいよ。叔父さんもそう思っていてくれたら、とても嬉しいんだけど。
いつか叔父さんの家を出る時は、ミーニャとの家を買う時にしたいくらいだ。その時は叔父さんを1人にしてしまうから、誰か叔父さんにもいい人がいたらいいのになあ。
叔父さんがそういう人を見つけたら、さすがに出ていかざるをえないから、もう少しだけ、それは先のことであって欲しいけど。
一緒にお昼ごはんを食べ終わったら、叔父さんに市場まで馬車でおくって貰って、お店のある市場の奥まで歩いていると、冒険者ギルドの前がなにやら騒がしい。
声をはりあげて楽しそうに、なにかのカタマリを冒険者たちに見せている、緑のマントを羽織った、薄い金髪の若い男性がいる。僕は思わず冒険者たちの後ろから覗き込んだ。
「こいつがそうだってのか?」
「海底鉱山から取れた金だって?
嘘くせえなあ……。」
──海底鉱山?
へえ〜、海の中って、金山があるんだ?
まあ、海の中の火山なんてものもあるっていうし、海底金山なんかもあるのかもね?
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