第113話 ニナナイ村の顛末
「そこ!動くな!スタンピードの可能性があるダンジョンを放置した疑いがある!全員しょっ引くからそのつもりでいるんだ!」
森からそっと村の様子をうかがうと、ニナナイダンジョンの入口で、すれ違った冒険者の男性が。そう声を張り上げている。
うわあ……、大事になってるよ……。
専門家からすると1万体はかなり異常で、スタンピードまではいかなくても、ダンジョンブレイクの可能性があったと、精算の時に冒険者ギルド職員さんが言っていたっけ。
初めて来た僕でも多いなって思ったけど、知らずに入って逃げられずに、リザードマンに殺された冒険者もいたかも知れないよね。
冒険者ギルドの管理下に置かないといけないかも知れないと言っていたけど、それ以上の話になってるみたいだ。
「アレックス、冒険者ギルドに見つかると、時間を取られて面倒だ。別にすぐ俺たちがこの村とは無関係だと分かると思うが、順番待ちに時間を取られることになるだろう。」
「うん、そーっと抜け出そう。」
「いや、バッカスの村の近くに時空の扉が出せないか?このまま帰ろう。」
「あ、うん、やってみるよ。」
普通に入ったところに扉を出しちゃったけど、それが出来るならすぐに家に帰れるね。
僕と叔父さんはお祖父さまのアイテムボックスの中に戻ると、僕は叔父さんの家をイメージして時空の扉を開けた。
「──い、家の中だあ……。
やったあ!成功したよ!
叔父さ……ん?どうしたの?」
せっかく叔父さんの家の中に、時空の扉がつなげられたのに、叔父さんは顔の下半分を手でおさえて、とんでもないものを見たような表情を浮かべている。
「アレックス……。
このスキルは知られるな、絶対だ……。」
「う、うん、分かってるよ?」
「そうじゃない。まさか建物の中にまで入れるとは思っていなかったんだ。
──これはまずい、本当にまずい。」
叔父さんは深刻そうな表情でそう言った。
「お前はオリビアに似て、他人の悪意に関心ないせいかそこに疎いし、そもそも悪意を持たない人間だから、わからないかも知れないが、悪意を持った人間からすれば、その力を持つというだけで、お前が他人に害をなす意思ありとして敵意を持つだろうし、さもなくば積極的に利用しようともしてくるだろう。
その可能性を常に想像したほうがいい。」
「う?うん……。わかったよ。」
確かに僕は、この力を使って悪いことをしようなんて、考えすらしなかった。
だけど、そう考える人からすれば、僕がそういう人間に見えてもおかしくないということだ。僕とは違う感性の人の感覚も、もう少し理解したほうがいいのかも知れないな。
まあ、誰でも家の中に勝手に人が入って来たら怖いよね。貴族の邸宅や王宮にまで入れると知られたらまずいことくらい、僕でもわかるよ。僕は改めて叔父さんに約束をした。
ゆっくりとお風呂をいただいて、潮風でベタベタした体を洗う。そういえば、レンジアはずっと僕について来てるけど、お風呂とか睡眠とかどうしてるんだろう?
レンジアだって小舟の上にずっといたんだから、潮風で体がベタベタしてる筈なんだけどな。だけど王家の密偵に、我が家のお風呂を貸すっていうのも変な話だし……。
そう考えていたら、お風呂で全裸だったレンジアのことを思い出してしまって、僕はバシャバシャとお湯で顔を洗って気を静めた。
ベッドに横になり、天井を見上げると、レンジア、今日は助けてくれてありがとうね、お休み、と声をかけた。……おやすみなさいと天井から声が返ってくる。ふふ。
かなり疲れていたのか、気が付けばグッスリと眠ってしまっていた。
次の日は市場が開く日だ。
思いがけずにダンジョンで大金を稼げたけど、僕は地道に商売をやっていくつもりでいたから、魚屋をやめるつもりはないんだ。
「アレックス、精算に行くぞ。」
「あ、うん。」
少し畑の手入れをしてから、叔父さんが僕にそう声をかける。
海水が染みた土は、入れ替えなくちゃいけないのかなと思っていたんだけど、叔父さんが生活魔法の魔宝石を持っていて、それで海水が染みた土をキレイにしてくれていた。
おかげで農作物は殆ど無事みたいだよ。
海水を吸ったのか、少しはいたんでしまった農作物もあったんだけど、叔父さんが何やら手入れをしたら元気になっていた。
生活魔法は汚れがキレイになる魔法だ。
魔宝石は、魔法を込めた宝石で、魔法のない人でも魔法を使うことが出来るんだ。
叔父さんの畑はすっかり元通りになっていて、食べるものにしばらく困るということもなくなって、僕は思わずホッとした。
僕は市場で店を出す前に、叔父さんと冒険者ギルドに行くことになった。
買い取りを頼んであったデビルスネークの査定結果が、今日出る予定なんだ。
「おう、来たな。」
顔に傷のある解体職人のオジサンが、ニッカと笑って出迎えてくれた。
「まずメスのデビルスネーク・亜種だが、こいつが大金貨3枚だな。亜種ということで値段がついた。子どもたちも亜種ということで1体につき小金貨5枚と決まったよ。」
「え?卵と同じ値段なんですか?」
「亜種は珍しいからな。
やったなボウズ、大金持ちじゃないか。」
解体職人のオジサンがそう言って、僕の背中をバンバン叩きながら笑う。い、痛い。こんなに喜んでくれてるんだもの、既にリザードマンで大儲けしたことは内緒にしよう。
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