第112話 叔父さんとザラ王女の密談
それで他国の冒険者にも関わらず、後ろ盾がない筈の叔父さんを、王族の護衛に雇うなんてことが出来たんだ。長年Sランクをやっていれば、当然大金も持っているわけだし。
いざとなれば、責任を取る為に叙爵して、貴族として保証をしろってことかあ。もちろんその分依頼料は多いんだろうけど。
年数を基準にするなら、受けられる人はSランクの中でも、更に少ないことになるね。
叙爵を受ければ伯爵以上になれるのに、冒険者を続けたい人は少ないだろうから。
実際、Aランク以上ともなると、有事の際の強制招集があるから、よほどのもの好きでもなければ、そうそうに現役を引退するものだと聞いたことがあるよ。
叔父さんみたく引退すると決めただけで、冒険者認定証を返納しないわけじゃなく、冒険者認定証を返納する、本当の引退をするんだ。だって呼び出されちゃうからね。
その頃は自国の冒険者に、長年続けてるSランクがいなかったのかな。それか叔父さんがその時その国で仕事をしていたか、だ。
それとも、自国の冒険者が、王族の依頼に尻込みでもしたのかな?王族の依頼なんて、受けないで済むなら受けたくないよね。なにかあった時の補償額で破産しかねないもの。
けど王族の依頼なんて、冒険者ギルドも断れないだろうしなあ。誰かを探すほかないから、最悪強制招集がかかる筈だよ。
叔父さんがそれでハズレくじを引かされたのかもね。いっかいの冒険者じゃあ、王族とつてが出来るわけでもないから、あんまり割に合わない仕事だと思う。
「我が国も、伝統に縛られてばかりおらず、すべての方に等しく機会を与えることを、考えなくてはならないかも知れませんね。元貴族の中から、ラウマン卿のような方が現れる機会を、奪っているのやも知れませんわ。」
まるで夜会で貴族同士が、領地経営について話しているかのようなノリで、叔父さんはザラ王女さまと話していた。他の人の目がないとはいえ、僕はちょっとヒヤヒヤしたよ。
「そういうことでしたら、平民に強制は出来かねますから、簡単には手出し出来ないとは思いますが、それでもエンジュが大人しくしているとは思えませんわ。」
「──つまりは、そういうことになると?」
「……はい、恐らくは。貴族籍から抜けるまでは、あの子の目の届くところにいらっしゃらないほうがよいと思います。」
叔父さんとザラ王女さまだけに通じる会話をしていて、僕はすっかり話題に入れなくなっていたよ。多分僕のことを話してるのに。
「平民を貴族にするのは難しいですけれど、貴族令息に一代限りの爵位を授けるのは、リシャーラ王国でも容易いことですわよね?
ましてや王族の命を救ったのですもの。」
「確かに。そのとおりです。功績をあげたものに一代限りの爵位を授ける。
それが貴族令息ともなれば、審査機関を通すまでもないことでしょう。」
「キャベンディッシュ令息が貴族である限りは、王族の強制力が働きますから、リシャーラ王国にはたらきかけて、甥御様を貴族にとどめるくらいはいたしましょう。」
「なるほど……。可能性として考えられることのひとつです。」
叔父さんがうなずいている。
「──あの子のあだ名をご存知ですか?」
「いいえ?申し訳ありません。他国の王女さまのあだ名にまでは精通しておらず……。」
叔父さんが不思議そうに首をかしげた。
王女さまのあだ名がなんだというのかな。
ザラ王女さまがハア……とため息をつく。
「静かなる爆弾娘ですわ。」
と言った。
爆弾娘だなんて、王女さまにつけるあだ名じゃないんだけど?いったいどんな子なの?エンジュ王女さまって……。
とりあえず、目的を果たした僕と叔父さんは、船に気が付いた人たちが近付いて来る前に、そっとレグリオ王国を抜け出すことにして、ザラ王女さまたちを船に残して別れた。
「エンジュ王女さまがお前に気付いていなければいいんだがな。気付いていた場合のことを考えなくてはならないな。」
小舟を操りながら叔父さんが言う。
「レグリオ王国で、僕たちのことを探すかも知れないからだよね。」
「ああ。まあ、さすがにすぐにはたどり着くことはないと思うがな。」
もしも俺のことも見ていたとしても、俺はエンジュ王女さまとお会いしたことがないからな、と叔父さんが言った。
だけど、ザラ王女さまとエンジュ王女さまは、リシャーラ王国に留学予定だ。
出会わないとも限らないよね。バッカスの村の外に出る時は、気を付けないとなあ。
僕と叔父さんは、また人気のない丘に戻ると、時空の扉を出してリシャーラ王国へと戻った。ニナナイの村はザワザワしていた。
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