第109話 クラーケン撃退

 さすがは叔父さんだね!足を踏ん張れない船の上の戦闘は、慣れた人でも戦力が落ちると言うけれど、足場が悪いどころか、足場のないクラーケンの体の上を移動するなんて!


「アレックス!今のうちにクラーケンの触手を切るんだ!王女を助け出せ!ヌルヌルしていて、俺じゃあ、上までたどりつけん!」

「え!?ど、どうやって!?」


「海水を使うんだ!キャベンディッシュ侯爵家の家庭教師から教わっただろう!魔法剣士の戦い方を!それをイメージするんだ!」


 叔父さんの言っている魔法剣士の戦い方っていうのは、魔法使いは手や杖の先から魔法を出すけど、魔法剣士は刀身の形の魔法を飛ばすやり方だということなんだ。


 魔法使いの戦い方は、単体魔法であっても小さな範囲魔法のような出し方なんだけど、魔法剣士は局所攻撃にたけている。


 刀身に魔法を宿して威力をあげたり、それこそすごい人になると、刀身そのものを魔法で生み出す人なんてのもいるんだ。そしてそれをそのまま飛ばしたりなんかも出来る。


 よくない言葉ではありますが、よく冒険者たちが言っている言葉を借りるのであれば、魔法使いは魔法でぶん殴る戦い方で、魔法剣士は魔法でぶった斬る戦い方だと言われておりますな、と昔家庭教師が教えてくれた。


 それくらい戦い方が違うものなんだって。

 叔父さんもキャベンディッシュ侯爵家時代に教わってたんだろうね。僕が教わっていたのは、父さまの代からの家庭教師だから。


 リアムも小さい頃から、当主教育こそ受けていなかったけど、僕とおんなじ実践以外の魔法の授業は受けていたからね。


 それをイメージして、刀身の形の海水を飛ばせということだ。僕にそんなこと出来るだろうか。威力や量こそ調節出来るようになったけど、そんな出し方したことないよ!


 ──だけど、やるしかないんだ。

 助けを待っていたら、あの子はやられちゃうかも知れない。叔父さんが気を引いていてくれてる。今がチャンスだ!!


「生命の海!!──水刃!!」

 僕は刀身の形の水圧の強い海水をイメージした。眩しい光の奔流に包まれて、木の扉が僕の頭上で開くと、いくつもの水の刃がクラーケンの触手へと襲いかかる。


 ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!

 女の子を掴んでいる触手を、水の刃が切り刻んだ。──やった!!だけど、切れた触手とともに女の子が空中へと落下していく。


「──きゃあああっ!?」

 やばい!海面に叩きつけられる!

「──時空の海!!

 吸引!!ハーフツインの女の子!!」


 僕の頭上で鉄の扉が開いて、ハーフツインの髪型の女の子を扉の向こうへ吸い込んだ。

 ドチャアン!と音がして、クラーケンの触手が海面に叩きつけられ水しぶきを上げる。


 クラーケンの意識が僕へと向いて、船から触手を離してこちらへやって来るクラーケンと目が合った。赤い目がギラリと光ってる。

 こ、怖い……。


「今だ!アレックス!!」

 体に突き立てた大剣を軸にして、再び振り子のように体を揺さぶった叔父さんが、大剣を抜きつつ小舟の上に飛び乗って来た。


「生命の海!戻れ、クラーケン!!」

 僕の目の前が発光する。

 思わず目をつむると、眩しい光の奔流に包まれていくのを感じた。


 僕の頭上で木の扉が開いていき、もと来た速度でクラーケンが生命の海の向こうへと戻って行く。クラーケンはジタバタしながら、最後まで僕のほうを睨んでいたよ。


 あとには僕たちの小舟と、リーグラ王国の船と、何ごともなかったかのような、静かな海だけがその場に残った。


「……アレックス、船の中はあのお姫さまが最後の1人かと思っていたが、どうやら見られてしまったみたいだな。──見ろ。」


 叔父さんが見上げる先には、穴の空いた船の中から、震える手で割れた壁に捕まりながら、こちらを見下ろしている、もう一人の髪の長い王女さまの姿があったんだ。


 その王女さまが、本来は窓から出す目的で取り付けられた、緊急脱出用の縄ばしごを、外壁の穴を通じて室内からたらしてくれる。

「上がってこいということらしい。」


 叔父さんと2人で船に小舟を近付けて、僕らは縄ばしごで船へと上がったんだ。

 髪の長い王女さまは、気丈にも立ち上がって居住まいを正して僕らを見つめた。


「リーグラ王国第一王女、ザラ・アウラ・スティビアにございます。このたびはクラーケン撃退にお力添えをいただき、国を代表してお礼を申し上げます。

 ……セオドア・ラウマン卿。」


「お久しぶりです。ザラ王女さま。」

 カーテシーをするザラ王女さまに、叔父さんが胸に拳を当ててお辞儀をする。


 王女さまから話しかけてくれたことで、叔父さんも挨拶をする。こんなところは、まだ叔父さんも貴族が抜けてないよね。王侯貴族は下位の者から話しかけては駄目なんだ。

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