第110話 王女さまへのお願い
え?というか、叔父さん王女さまと知り合いなの!?冒険者時代に会ったのかな?懐かしそうにほほえみ合う叔父さんと王女さま。
「わたくしが幼き頃、スレインさまの護衛としてついていらした、ラウマン卿にお会いして以来ですわね。わたくしあれから、スレインさまと婚約致しましたの。」
「それはおめでとうごさいます。
いっかいの護衛ごときの顔を、よく覚えておいででしたね。非常に嬉しく思います。」
「あの頃はまさかこうなるとは思っておりませんでしたわ。……ラウマン卿の活躍は素晴らしかったですもの。あれは忘れようと思っても、忘れることなど出来ませんわ。」
昔叔父さんとザラ王女さまの間に、いったいなにがあったんだろう?
叔父さんの現役時代かつ、ザラ王女さまが子どもの頃だから、かなり前の話だよね。
スレインさまって、ナムチャベト王国の王太子のお名前だよね。
たしかザラ王女さまの婚約者の筈だよ。
まさか叔父さんが王族の護衛をしてたなんて。いくらSランクとはいえ、騎士団を差し置いて護衛につくのは相当だよ?
おまけに他国の冒険者だっていうのに。
王族の護衛となれば、普通なら自国の騎士団を引き連れているだろうし、そうじゃなくても自国の冒険者を連れ歩く筈だよ。
傭兵として海外に雇われるケースはあるけど、王族の護衛になんてつける筈もない。
だって後ろ盾がないからね。
貴族ならその家が、自国の冒険者なら冒険者ギルドが、何かあった時の保証をすることになるけど、他国の冒険者にはそれがない。
それともリーグラ王国だと、そこのルールが異なるのかな?
うーん……、ちょっとわかんないな。
それで、その……。とザラ王女さまが目線を落とした。
「……妹は、エンジュはどうなりましたでしょうか?」
妹の最後を見届けなくてはならない、という、王女としての悲壮な覚悟を込めた表情だったから、僕は思わず勢いに飲まれてしまって、無事ですよとすぐに言えなかった。
「アレックス。」
「──あ!うん!──時空の海!!
排出!ハーフツインの女の子!」
僕の目の前に鉄の扉が現れて、その扉が開いてハーフツインの女の子が中から現れる。
どうやら気絶しているみたいだ。僕はその子を抱き上げて、ベッドに寝かせてあげた。
「ああ……。エンジュ……!!」
ザラ王女は口元を両手でおさえて涙を流したあと、ベッドに駆け寄ってエンジュ王女の顔色を覗き込んだ。
「気絶しているだけのようです。」
「本当に、なんとお礼を言ってよいか!」
「ザラ王女、でしたらひとつお礼をいただけませんでしょうか?」
「叔父さん!?」
王族にお願いだなんて、不敬すぎるよ!?
「ええ、なんなりと。
わたくしに出来ることであれば。」
ザラ王女さまは気にしたそぶりもなく、ニッコリと叔父さんと僕に微笑んでくれた。
とっても美人で優しそうな人だなあ。
リーグラ王国の美人姉妹の噂は、うちの国にも届いていたけど、噂以上という感じがするね。彼女の放つ品がそれを増しているよ。
既に婚約が決まっている女性とはいえ、こんな人と一緒に勉強するなんて、貴族令息たちが大騒ぎだろうな。
ファーストダンスは当然王太子が踊るとして、誰が王太子の次にダンスを踊るのか、貴族令息たちの間で奪い合いだね、きっと。
「見ればこの船の船員も、兵士たちもやられてしまった様子。目撃者はあなたさまとエンジュ王女さまだけのようです。どうか先ほどの出来事を、忘れてはいただけませんか。」
「そんな……!あなた方は王女を2人も助けたのですよ、国をあげて感謝の意を示すべきところを、よもや忘れろだなんて……。」
「今はまだアレックスの力を知らせる時ではないと思っているのです。もしもという時お力添えを願いたく思っておりますが、その時まではなにとぞ他言いただきませんよう。」
「……クラーケンを撃退するほどの人間が、そうそういるとも思えません。下手なごまかしは通用しないのでは?」
ザラ王女は困惑して眉を下げた。
「船はクラーケンを残して、空気の渦に巻き込まれた、そしてこの場に船が現れた、ただそれだけのことです。……今は。」
──空気の渦?なにそれ。
「……空気の渦、ですか。
確かにそれなら説明もつきましょう。」
ごめんなさい、分からない。
2人してなんの話をしているの?
「空気の渦は、海に突如発生する、魔力を持った穴です。そこに巻き込まれた船は、どこかに姿を消し、どこかに現れることもある。
今回はそうやって逃れたとすれば。」
叔父さんが空気の渦について話してくれたから、それがどんなものなのかがなんとなくわかったよ。つまり、異空間につながるゲートのようなものが、海に出来るってことか。
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