第108話 VS クラーケン

 巨大な船は斜めになっていて、クラーケンに捕まって持ち上げられていたみたいだ。

 船体の横には巨大な穴があいていて、クラーケンの触手には女の子が握られている。


 おまけに、そ、その……。

 オシリが丸出しになっちゃってるよ!?

 見、見ちゃいけないけど、ついつい、しばらくジッと見てしまってあっけにとられる。


 可愛らしいハーフアップの髪型をした女の子は、明らかに高貴な出身と分かるキレイなドレスを着ていた。ひょっとしてあれ、リーグラ王国のお姫さまなの!?


 僕は腕で顔の前を覆って、女の子のオシリの部分を直視しないようにしながら、なんとか女の子とクラーケンの様子をうかがった。


 王族のオシリを見るなんて、とんでもない不敬だけど、無理やり視界に入っちゃったものは、僕にもどうしようもなかった。

 けどなんであんなことになってるんだろ?


 普通なら、あんな状態のお姫さまをほっとくわけないもの。かなわないまでも、誰かがすぐに助けようとする筈だ。それなのに、船の甲板から誰も姿を現さなかった。


 まさか、兵士も船員たちも、みんなクラーケンにやられちゃったのかな……?船にはもう、あの子しか残っていないんだろうか。


「……まさか兵士が誰も現れんとはな。

 アレックス!やるしかない、クラーケンを船から引っ剥がすぞ!」

「ええっ!?叔父さん、倒せるの!?」


「──いや、クラーケンはSSランクだ、いくらなんでも俺1人では無理だ。だから船から引っ剥がす。引っ剥がしさえすれば、クラーケンだけをもとの海に戻せるだろう。」


「そ、そっか!船だけを残して、生命の海でクラーケンをもと来た場所に戻すんだね!」

「ああ。お前のスキルの力がいる。

 頼んだぞ、アレックス!!」


 その時、クラーケンの触手のひとつが、僕らの小舟めがけて、斜め上から薙ぎ払うように、バシーン!と飛んで来た!──武器を携えている叔父さんを正確に狙って。


 叔父さんは背中に背負っていた大剣を抜くと、船底を蹴って空中へと飛び上がった。

 叔父さんがすんでのところで触手をかわして、空振った触手が僕に向かってくる。


 僕はそれをかわせなくて、思わず両腕で顔を覆った。──バチバチバチィッ!!!

 クラーケンの触手は僕に当たらなくて、弾かれたまま、小舟の横を叩きつける。


 う、うわあ!?その勢いで不安定な小舟がグラグラと揺れて、僕の体は小舟から海面へと放り出されそうになった。危ない!!


 ──ガシッ!!……フニュッ。

 僕の体を、見えない何かが後ろから抱きとめて、僕の体が小舟から落ちるのを防いでくれた。え?こ、これってまさか……。


「レンジア……?

 こんなところまでついて来てたの!?」

 こ、この柔らかいものは、……まさか。

 思わずカーッと顔が熱くなる。


 思わず小舟のへりを掴んで振り返ると、レンジアの姿はなかった。だけど確かに、柔らかくてあたたかい何かが僕を抱きしめてる。


 ひょっとして、ダンジョンの時からついて来てたのかな?身を隠すスキルがあるというけど、レンジアはそれを持ってるのかも。


 ──あれ?だとしたら、お風呂の時は、どうして姿を現していたんだろう?

 スキルで姿を隠されていたら、僕にはまったく分からなかったのに……。


 その時、プハアッ!って大きく息を吸う音ともに、レンジアが姿を現した。

「……ひょっとして、そうやって息を止めてる間しか、姿を隠せないの?」


「……違う。」

 そう言うと、また大きく息を吸い込んだかと思うと、レンジアの姿が消えた。

 ……うん、そうなんだね。


「え?な、なにこれ……。」

 僕の目の前の空中には、謎の魔法陣が展開されていた。どうもこれが僕を守ってくれたみたいだ。──そうか!カナンの加護だ!


 僕を守ると言ってくれていたよね。あの時既に、僕を守る加護が働いていたんだ。

 それがクラーケンの触手を弾いたらしい。

 た、助かったあ……。


 なんとか小船がひっくり返らずにすんで、叔父さんが飛んでいった方向を見上げると、叔父さんはクラーケンの体に大剣を突き立てて、力任せにグリッとひねった。


 クラーケンの体から紫色の体液なのか、血なのかよくわからないものが吹き出して、クラーケンの注意が船から叔父さんへと移る。


 クラーケンの体に突き立てた大剣を軸に、振り子のように体を揺さぶると、叔父さんはその反動で剣を抜きつつ、クラーケンの触手をかわしている。


 そのたび別の場所へと大剣を突き立てて、クラーケンの体の上を移動するみたいに、叔父さんはクラーケンと戦っていた。


「キエエエエェエエエエ!!」

 クラーケンは鳴き声ともただの音ともつかないような音を発して、苛立ったように叔父さんを追いかけ始めた。

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