第100話 空間移動のスキル

「100%アップのスクロール!?

 こんな凄いもの、貰えないわ。だってかなり高いって聞いたことがあるもの。」


 リザードマンの革鎧には、素直に喜んでくれたんだけど、スクロールを開いた途端、ミーニャが困惑して眉を下げた。


「私、たいして強くないもの。こんなもの使う機会もないし、もったいないわ。」

 確かにそれはそうかも知れないけど。


「で、でもほら、一角ウサギ退治をするって言ってたでしょう?僕、ミーニャに万が一にも怪我をして欲しくないんだ……。」


「アレックス……。」

 ミーニャが頬を染めて、嬉しそうに僕を見つめてくれる。


「そんな凄いものをドロップしたのなら、それ以外もドロップしたんじゃない?くれるならそれでじゅうぶんよ。一角ウサギなら、かなり安全に狩れるようになる筈だから。」


 ミーニャがそう言ってきたので、どれがいい?とスクロールを見せてたずねると、ミーニャは10%上昇のスクロールを選んだ。


 僕は攻撃力、防御力、俊敏性、経験値、スキル経験値、HP、SPの10%上昇スクロールを大量に手渡した。弓は特に俊敏性で当たり方が変わるものだというしね。


 もう、アレックスったら……、とミーニャが困ったような表情で微笑む。

 じゃあ、叔父さんが待ってるから!と、僕はミーニャと別れた。


「どうだった?」

 再び中に戻ると、叔父さんが聞いてくる。

「ミーニャの家の庭の近くに出たよ。」

 僕は正直に答えた。


「なんでそれで真っ赤になってるんだ?

 ……さては、風呂でも覗いたか?」

 叔父さんがからかうように言ってくる。

「わ、わわわわ、わざとじゃないよ!?」


 僕は慌てて否定する。

「なんだ、冗談のつもりだったんだが、ほんとに覗いたのか。」

 と叔父さんが笑っている。


「だって、水浴びしてるとは思わなかったんだもん……。庭の方からミーニャの家に行ったことなんてなかったから、全然気が付かなかったし。許してはくれたけど……。」


「本人に見つかったのか。

 その割に悲鳴とか聞こえなかったな?」

「それは、その、僕だから、だと思う。」


「そうか。」

 叔父さんがそう言ってニヤニヤする。

 うう……。恥ずかしい。


「とりあえず、出られることは分かった。

 あとは扉を消して戻れるかどうかだな。」

「──扉を消して?……どうして?」


「例えば扉を人に見られる状態のまま、放置するわけにもいかないだろう。それと、お前が移動した時に、また別の場所から扉が開けるのかを試しておきたくてな。」


 ようするに座標が固定されて、ミーニャの家の裏庭にしか出られないものであるのか、リシャーラ王国のどこからでも、時空の扉を出して、中に戻れるのかを知りたいらしい。


「王都からなら、万が一戻れなくても、馬車で帰ってくればすむからな。」

「分かった、やってみるよ。」


 僕は懐かしい我が家に行ってみることにしたんだ。リアムをひと目見れないかなって思って。時空の扉を一度消して歩いていく。


 僕は徒歩でキャベンディッシュ侯爵家に向かって裏庭に回ると、柵の向こうから中をそっと覗いてみる。


 ついこの間まで住んでいたのに、まったく別の建物に見えた。──僕を拒絶する、背の高い鉄柵。ここに僕は2度と戻れないんだ。

 生まれた家なのに複雑に感じた。


 ……いた!!リアム……!

「あはは、くすぐったいよ。」

 リアムは裏庭で黒猫とたわむれていた。


 黒いサスペンダーつきの半ズボンに、ひだのたくさんついた白シャツを着ている。あれは恐らくエロイーズさんの趣味だな。


 よかった。あの黒猫の子猫、飼ってもらえることになったんだな。リアムは猫を飼いたがっていたからね。エロイーズさんが野良猫を家に入れてくれるとは思わなかったけど。


 たぶん父さまが説得したんだな。

 エロイーズさんも、さすがに父さまの決定には逆らえないからね。


 きっと後継者としての勉強を、たくさん頑張ったんだと思う。僕も勉強を頑張ったら、ご褒美を買って貰ったことがあるからね。


 僕はいたく満足して、キャベンディッシュ侯爵家をあとにしようとした。

「ニャーン。」

 チリンチリン。


「あっ、どうしたの?チムニー。」

 チムニーはリアムの膝からするりと降りると、突然僕のほうに駆けてきた。


 わわっ!?見られるとまずいよ!

 リアムが寂しがらないように、声をかけないで去ろうと思ったのに!


 何度か餌をあげたことがあったから、懐いてくれていたんだよね。また僕が餌をくれるとでも思ったんだろうか?


 僕は慌てて時空の扉を出すと、素早く中へと滑り込んだ。扉が閉まる瞬間、

「兄さま……?」

 と呟いたリアムの声が聞こえた気がした。


「その様子だと、どこからでも出せるみたいだな。思ったところに移動出来る能力か。」

 叔父さんが戻った僕を見て言う。

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