第101話 行方知れずの王女さま

「う、うん、そうみたい。」

「なら次は、95番の扉に行ってみよう。

 お前の話だと、レグリオ王国の騎士のアイテムボックスということだったな。」


「うん、そうだと思う。」

「それなら、レグリオ王国につながるかも知れないということだ。レグリオ王国なら行ったことがある。試してみよう。」


「分かった。」

 僕は叔父さんと階段を降りて、95番の扉へと向かった。中に入ると、同じように扉を出して、今度は叔父さんと外に出てみた。


 海沿いの国らしく、強い潮風の匂いが鼻をくすぐった。母さまと行った懐かしい旅行のことを思い出して、感慨深い気持ちになる。


 僕らが出たのは小高い丘の上で、そこから海が一望出来た。遠くをすすむ船が見えて、見覚えのある景色がそこにはあった。


 国の玄関口である港の近くには、来航者を歓迎するかのように、窓に植木鉢の飾られたレンガ造りの商店が立ち並び、それが一本道になった、とても美しい街並だ。


 レグリオ王国独自の伝統服に身を包んだ人たちが、その道を行き交っていた。それが間違いなくここがレグリオ王国だと教えてくれる。僕はゴクリとつばを飲み込んだ。


「……なんてことだ。こりゃあ……、本当にレグリオ王国に来ちまうなんてな。

 アレックス、このスキルは本当に凄いものだ。簡単に使わないほうがいいだろうな。」


「うん、僕もそう思う。」

 まさか、空間移動が出来るなんて。もしも建物の中にまで入れたらとしたら、警備兵なんて意味がなくなってしまうことだろうし。


 昼間じゃないと町がどこか調べられないから、また休日に他のアイテムボックスを、叔父さんと調べてみようということになった。


 僕と叔父さんは時空の扉の中に戻ると、リザードマンのいたダンジョンのフロアへと戻って来た。さすがにあれだけ一気に倒したから、リザードマンはまだわいてなかったよ。


 けど、例の2人組みはまだ気絶してるみたいだね。自業自得だけどさ。

「よし、色々確認も出来たことだし、討伐報告をして家に戻ろう。」


「うん、そうだね。ちょっと疲れたや。」

 今日の目的は果たしたから、ダンジョンの階段をのぼって外に出ようとすると、

「こっちです!人相の悪い2人組みです!」


 ダンジョンの外で警備をしていたオジサンたちが、アルムナイの冒険者ギルドから来たらしき、鎧を身に着けた男女総勢8人を、ニナナイダンジョンに迎え入れていたよ。


「おっと!すまんな!」

 狭い通路をドヤドヤとすれ違う人たちと、ちょっと肩がぶつかって謝られた。


「あの2人組みを捕まえに来たのかな?」

「恐らくはそうだろうな。」

 気絶してたし、簡単に捕まっちゃうだろうな。あの人たち、常連みたいだったしなあ。


 僕に絡んできた3人みたく、冒険者としての資格を剥奪されたりするのかな?

 冒険者をやる人たちは、冒険者しか出来ないから、してる人が多いって言うからね。


 冒険者の資格を剥奪されるっていうのは、実際は単純に捕まるよりも重たい罰らしい。

 そこで反省して他の仕事につけるよう頑張らないと、今度こそ生きられなくなるって。


 冒険者の資格を剥奪された後で、また何かをやらかして捕まったら最後、奴隷ルートまっしぐらだからな、と叔父さんが言った。


 そこまでの罰があるのに、なんでそういうことをするんだろうね?捕まらない自信でもあったのかな。彼らは繰り返してたみたいだし、今まではそうだったんだね、きっと。

 

 僕と叔父さんはアルムナイの町の冒険者ギルドに立ち寄ると、討伐報告の為の順番を待っていた。そこで妙な話が聞こえてきたよ。


「聞いたか?リーグラ王国の姫さんたちを乗せた船が、行方知れずだとよ。」

 ──リーグラ王国のお姫さまたちを乗せた船が、行方知れず?


「ああ。姉妹で留学に来る予定だったんだろう?レグリオ王国経由で来る筈が、なんの音沙汰もないらしいな。」


 ……そうか!うちの国の王太子の婚約を打診しようとしていたのが、リーグラ王国の第一王女さまじゃないか!他の国の王太子と婚約したけど、留学は変わらず来るんだね。


「……こんなところまで噂が届くということは、相当前から行方知れずなんだろうな。

 ひょっとしたらもう……。」


「ええっ!?

 怖いこと言わないでよ、叔父さん!」

 確かにアルムナイの町は王都から離れているから、噂が届くのは遅いと思う。


 僕が王都にいた時には聞かなかったから、それ以降だとしても、もう7日近く船が消息を経っているということになるよ。


 そんなに連絡がなかったら、それは確かにそうかも知れないけど……。でも……。

「アレックス、順番だぞ。」

「──あ、うん。」


 僕がカウンターで、たくさんあるんですがと告げると、叔父さんの顔を知っていた職員さんが、息子さんですか?さすがセオドアさんの血筋ですね!と褒めてくれた。

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