第91話 〈海〉での攻撃練習
男の人たちは、斧使いが短剣使いに肩を貸して立ち上がらせると、くそっ!と振り返りつつ言いながら、ダンジョンを出て行った。
「──なに見てんだ?お前ら。」
「なんか文句でもあるのか?」
じっとこのやり取りを見ていた僕たちのことを睨んでくる。
「あ、あの、えと……。」
「ああ。さっきの彼らがここはもうゴミしか出ないと言っていただろう?俺たちは経験値目当てでな。ここで狩りをしたいんだが。」
見た目も態度もおっかない2人組みに萎縮して、うまく話せない僕に代わって、叔父さんは動揺することなく、やんわりとした態度で堂々と2人組みと話していた。
「ああ、別に構わねえぜえ?」
「ここにはもう用事はねえしな。
せいぜいお子ちゃまの面倒みてやんな!」
2人組みはそう言って、ご機嫌で去って行った。僕は、ふう、とため息をついた。
「……行ったね。」
「そうだな、よし、始めようか。」
ダイアウルフたちがいる場所は、結構広いスペースで、天井も地面にもところどころ凸凹と尖った出っ張った岩があって、気を付けないと蹴躓きそうになる薄暗いところだ。
叔父さんいわく鍾乳洞っていう洞窟に近い形なんだそうだ。僕らが通ってきた道と反対のところには、いくつもの洞穴のような穴が空いていて、それは分かれ道になっている。
その分かれ道のうちのいくつかが、ダイアウルフの巣になっているんだそうだ。
もしも倒せないと思って逃げるのなら、奥に進むのは不正解ってことだね。
進んだ先がダイアウルフの巣だったりなんかしたら、前にも後ろにも逃げ場がなくなってしまうもの。
「奴らのおかげで誰もいない。さあ、アレックス、スキルで広範囲攻撃をしつつ、弓で向かってくるやつを狙い撃つんだ。」
「う、うん、分かった。」
しれっとそう言った叔父さんに、僕は目を丸くした。確かに彼らのおかげでここには今誰もいない。僕のスキルの練習の為には、周囲に誰もいないにこしたことはないけど。
その為に彼らの狼藉に目をつぶっていたのかな?もちろんそれだけじゃあないとは思うけど……。場所を譲って欲しいとお願いするより、このほうが人がいなくるのは事実だ。
ダンジョンの狼藉者のおかげで、狩り場を独り占めして、悠々と練習出来るっていうのも、なんだか複雑な気持ちがするなあ。
まあ考えても仕方がないか。
叔父さんが僕をここに連れて来た目的は3つ。1つ目の目的は、〈海〉のスキルによる攻撃方法を調節出来るようになること。
2つ目の目的は、スキルのレベルアップをすること。経験値を稼ぐことでスキルはレベルアップする。スキルを使うことももちろんだけど、魔物を狩っても経験値は稼げる。
スキルのレベルアップで新たな力の開放が起きることは分かっているから、まずはこのスキルを極めてみようっていうことだね。
もう1つ最後の目的は、出すのに時間のかかる〈海〉に頼らずとも、僕自身の力で魔物を倒せるようになることだ。
剣は習得に時間がかかるから、素人でも上達のしやすい引き弓を教えてくれることになったんだ。〈海〉で全体攻撃を狙いつつ、近付いてくる魔物を弓で倒せるようにする。
この3つが今日の目標だ。男の人たちが狩りまくったことで、わきまちだったダイアウルフの群れが、フッとダンジョンに現れる。そして僕たちを見るなり唸り声をあげた。
「激流!!」
僕は太くて長くて勢いのある海水が、真ん中の3体のダイアウルフを狙うようイメージして、スキルを発動させた。
叔父さんがいつでも僕を守れるように、大剣を構えて近くで見守ってくれているから、僕はドキドキしつつも、ダイアウルフをキッと睨みすえて、弓で狙いをつけた。
狙うは〈海〉で狙っていない、斜め横から僕に向かって走って来ているダイアウルフ1体だ。僕が弓を引いた瞬間、その後ろのダイアウルフが地面を蹴って飛びかかってきた。
時間差で元々僕が狙いを定めていたダイアウルフまでも、さらに飛びかかってきた。
「──うわあっ!?」
僕は慌てて体勢を崩してしまう。体が反射的にどちらにも対応しようとして、ブレブレになって、うまく狙いがつけられない。
「落ち着け!そのまま飛んできたやつに狙いを定め直せ!──放せ!!」
「う、うん!」
僕は叔父さんの言葉で落ち着くと、気を取り直して飛びかかってきたダイアウルフに狙いをつけ直して、矢を放った。
「ギャイン!!」
僕の矢がダイアウルフの目を貫いたけど、一撃では倒せずに、ダイアウルフが後ろにも下がったにとどまった。
「ギャビィッ!!」
「──うまいぞ、アレックス。」
叔父さんが大剣で、もう1体を叩き落とつつそう言って笑った。
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