第90話 Dランク冒険者対Eランク冒険者

「お前たちみたいな奴らに、俺たちの努力の成果を、奪われてたまるもんか!」

 男の人たちが武器を抜いて構える。どうやら短剣使いと斧使いのようだった。


「……魔物のDランクを相手にするのと、冒険者のDランクを相手にするのは、違うってことを、嫌ってほど体に教えてやるよ。」


「お、叔父さん……。」

「危ないから下がっていろ。」

 叔父さんは、手出し無用という風に、僕をかばうようにして後ろに下がらせた。


「1人は魔法使いだ!

 詠唱が終わる前に潰せ!」

「わかってるって!」


 斧使いの重たい一撃を、2人組みの方の長剣使いが剣で受け止めている隙に、呪文を唱えている後衛の魔法使いに、短剣使いが襲いかかった。──早い!!


 言うだけあって、男の人たちはそれなりに強かった。間合いを詰める速度だけなら、結構凄いほうだと思う。だけどそれでも、キャベンディッシュ侯爵家の私兵以下だけど。


 日頃キャベンディッシュ侯爵家の私設騎士団の訓練を見慣れている僕としては、あれ?こんなものなの?と拍子抜けしてしまった。


 ヒルデの時はその強さに驚かされたのに、Eランクって思っていたよりも強くないんだなあ。それでも僕より強いんだろうけど。


 僕は無理やりに引き上げたFランクだからね。彼らを弱いなんて思ったら失礼なんだろうけど、実際自分よりも強者に喧嘩を売るには、随分心もとない戦力だなって思えたよ。


 一瞬で間合いを詰められて、万事休すと思われた2人組みの魔法使いは、ニヤリと笑うと、「クロスファイヤー!!」


「ぐわああぁああ!?」

「エヴァンス!?」

 詠唱の途中だった筈の魔法使いが、突如としてクロスファイヤーを放ったんだ!


 もろに顔面にそれをくらった短剣使いが地面にのたうち回って火を消そうとしてる。

 凄い!無詠唱じゃないけど、ほぼそれに近いことをやるなんて!どうやったんだろう!


「──詠唱短縮の、バイコーンの角で出来た護符だ。近接職は魔法使いをナメすぎなんだよ。まんまと引っかかりやがったな。」


「これがDランクってやつさ。」

 ゲタゲタと2人組みが笑う。実際人間ってあんなふうに笑えるものなんだなあ。


「……ふざけるな!なにがDランクの実力なもんか!こうやって人の場所を奪って稼いだ金で、その護符を買ったくせに!本来Dランクなんかに買えるシロモノじゃないぞ!」


 そうなんだ。ということは、バイコーンの角って、かなりお高いんだな。

 2人組みの魔法使いは、魔法使いの弱点である詠唱を短縮するのにお金を使ったのか。


 魔法使いはソロ狩りの出来ないものだというけれど、詠唱短縮があれば、ソロでも狩れちゃうかも知れないものね。強くなりたかったら、魔法使いには必須のアイテムだ。


「そういうところも含めて、俺たちはDランクなのさ。弱い癖して強い相手にいきがるお坊ちゃんたちに、身の程を教えてやる優しい先輩さ。わかったろう?無理だって。」


 そう言われた男の人たちは、まだ諦めていないとでもいう風に、お互いチラリと目線を交わしてから、2人組みを睨んだ。


 そして同時に飛び出すと、2人がかりで長剣使いに切りかかった!

「2対1なら!」

「1ランク差なんて関係ない!」


 男の人たちの攻撃を、真正面から受け止めた長剣使いの背中が、火魔法使いから彼らを隠すことになってる。うまいやり方だ!

 そう僕が思った時だった。


「ターゲットファイヤー!!」

 そう叫んだ火魔法使いの放った魔法が、なんと長剣使いの男の脇を、グルリと弧を描くように曲がって、男の人たちに当たった!


「うわああああ!!」

「ギャアッ!!」

 死角からモロに火魔法をくらってしまった男の人たちが、地面の上で転げ回る。


「──剣と剣ならどうにかなるとでも思ってんのか?その隙に魔法の攻撃がくるぜ?」

 2人組みの火魔法使いが、手のひらにファイヤーボールをためながら言う。


「くっ……!」

「さっき俺に触れられた時に、札を貼り付けられたことにも気付かねえ、間抜け野郎どもが。誰に喧嘩を売ったかわかってんのか?」


 そうか!昔家庭教師から、魔法を必ず対象者に当てるのに、追撃する攻撃魔法と、魔法を引き付ける札を貼るやり方があると聞いたことがあるよ。それを彼らに貼ったのか!


 本来大きな魔物を倒す時に、同じ場所に攻撃し続けて、疲労を貯める為の方法だけど。

「お前たち自ら売った喧嘩に負けたんだ、分かってんだろうな?堅ろうな牙を出しな。」


「全部だぜえ?優しく言ってるうちに、譲っておけば良かったのによぉ。ハハハハ。──2度と俺たちにたてつくんじゃねえぞ?」

 下卑た笑い声をあげながら手を差し出す。

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