第89話 ダンジョンの狼藉者
「どうして?」
「解除の為には奴隷という財産を失うことへの金銭的な保証がいるからだ。その金を奴隷は稼げない。だから一生奴隷なんだ。」
考え込む僕に、
「理不尽だろう?だがそれがこの国の法律なんだ。さっきの奴らと下手に争って売り飛ばされたら、お前は一生奴隷になる。」
「だから手を出さなかったということ?」
「やり返す必要のある相手かどうかを、見極める力がいるということだ。奴らは場所を譲れば何もしない。なら譲ったほうがいい。」
「僕が、戦っても負けるから……だね。」
「怒らせたら何をするか分からない人種というのがいる。あれはそのてあいだ。変に目をつけられないに越したことはないからな。」
僕と叔父さんは目的の魔物を倒すために、一気に下に降りていく。魔物のいるところを突っ切らないと下に行かれないフロアと、階段でそのまま降りられるフロアがあるんだ。
ダンジョンには色んな形があるんだけど、ニナナイダンジョンは地下に降りていく形になってて、フロアごとに別の魔物がわく。
これがダンジョンのスタンダードな形らしい。ちなみに入口近くの0階がスライムとゴブリンで、ここはフロアを突っ切らないと、下の階には行かれない場所だ。
地下1階がジャイアントバットとスライムで、地下2階がポイズンフロッグとスライムだ。そして、地下3階がジャイアントバットとポイズンフロッグ。
ゴブリンは地上0階にしかいない形だね。
地下4階がダイアウルフとジャイアントバットとポイズンフロッグ。けど、ダイアウルフはそんなに数がいないんだ。
地下1階から地下4階まではフロアを突っ切らなくても、一気に下の階にまでいける。
僕らが目指すのは、地下5階のダイアウルフしかいないエリアだ。
下層に降りていくほど、強い魔物がわく。
ダンジョンボスを除けば、リザードマンがニナナイダンジョンの中では、最も強い魔物だということだ。
僕らが5階に降りて入口から奥へと進んで行くと、全く、なんて奴らだよ!と、舌打ちしながら入り口へと戻っていく、若い男の人たち2人のパーティーとすれ違った。
見るとさっきの2人組みが他の人たちを邪魔してダイアウルフの群れを攻撃している。
彼ら、まだやってるんだなあ。あれ?でも僕らは2人組みよりも先に降りてきたよね?
「どうやら反対側の階段から、先に降りてきたようだな。このダンジョンの階段は狭いからか、2箇所にあるんだ。」
叔父さんの視線の先には、別の階段らしきものが見えて、そっちから2人組みを振り返りながら帰って行く人たちもいた。
この場を去って行く男の人たちが、まあ、堅ろうな上牙が5つも出たんだ、よしとしようぜ、レアドロップが立て続けにあったら、さすがにしばらく出ないからな!なんて、彼らに聞こえるような大声で話してる。
ハハハハ、ゴミしか出ないのにご苦労なことだな!違いねえ違いねえ!と話す男の人たちに、さっきの2人組みがギラリと目を光らせて男の人たちを睨んだ。
「ほーお?ここじゃあもうゴミしか出ねえのか、そいつはいいことを教えてくれたぜ。」
「ああ、まったくだな、兄弟。」
兄弟と呼んだ2人組みの片割れは、もう1人とまったく似ていなかったから、恐らくは兄弟分的な何かでそう呼んでいるんだろう。
「な、なんだよ。」
2人組みを煽った男性たちが、射すくめられたように、怖がって足を止めている。
「なあ、あんたら。俺たちはこの先、ここでゴミしか出ないのに狩りをしなくちゃならないんだ、かわいそうだとは思わねえか?」
「なあ。かわいそうだよなあ、俺たちは。」
「ああ、かわいそうだ、かわいそうだ。」
「そこで、だ……。」
2人組みが男の人たちの肩に腕をついて、その顔をニヤニヤと近付けている。
「5つもダイアウルフから、レアドロップがあったんだってなあ?」
「俺たちに少し分けてくれても、バチは当たらねえんじゃねえのか?あぁん?」
「なにも全部寄越せって言ってるわけじゃねえんだ。分けてくれるだろ?なあ兄弟。」
2人組みは今度は男の人たちを兄弟と呼んだ。今のは知り合いみたく馴れ馴れしくしてるってことなのかな?
男の人たちはブルブルと震えながらも、
「お、お前たちなんかの言いなりになるもんんか!後から来て場所を奪っておいて!」
「そうだ!渡すもんか!」
と叫んだ。
「ああ……?優しく言ってるのに、分からねえようだな……。なあ兄弟。」
2人組みはニヤニヤしながらそう言った。
「本当だぜ。俺たちがDランクだってことがわかってねえみたいだぜ。」
「なにがDランクだ!俺たちだってEランクなんだぞ!なめるな!」
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