王家の影

第54話 お風呂場への侵入者

 こうなると端っこで良かったかもね。

 あんまり人がいないから、人が集まっても他の店の邪魔になりにくいもの。


 なんなら僕の店とラナおばさんの店と、リュウメン屋さんに来るついでに、近所の店を覗いたり、買い物するお客さんも増えてる。


 感謝されこそすれ、文句は言われないかも知れないな。今まで暇だったわけだしね。

 リュウメン屋さんは大人気で、あっというまにスープが売り切れて閉店になった。


 僕のお店も売り切れたから、早々に店じまいだ。今日はアローア魚が欲しいと、ミアちゃんに言われたので、2人のマジックバッグの中に25匹入れてあげた。


 売るとなれば、これだけで小金貨3枚にもなる。更に現金まで渡さなくてもいいんじゃないの?とヒルデに言われたんだけど、現金じゃないと買えないものもあるからね。


 僕のほうは元手がタダだし。売ったお金を渡すのなら、もちろん高すぎるだろうけど。

 お金を渡しすぎずに、ご飯を食べて貰おうと思ったら、これが一番いいと思うんだ。


 ヒルデとミアちゃんとルークくんと、町の入口で、明日明後日はお休みだから、と、手を振って別れる。


 市場自体が休みなのは明後日だけだから、別に明日は休まなくてもいいんだけどね。

 朝の時点で叔父さんから、明日1日あけといてくれって言われているからなんだ。


 ラナおばさんとポーリンさんは、売り切れるまで店をあけるつもりみたいで、まだ市場に残ってた。叔父さんと馬車に揺られていると、叔父さんが僕の匂いをかいでくる。


「今日は随分忙しかったんだな。」

「え?そんなこともないよ?」

「そうなのか?なんか汗臭いぞ?」

 ええっ!?あ、汗臭いの?僕!?


「きっとリュウメンを食べた時だ!

 みんなメチャクチャ汗をかいたもの。」

「リュウメン?リーグラ王国の国民食じゃないか。食べたのか?」


「うん、屋台が市場に出てたから。」

「そうか。あれはうまいよな。

 俺も食べに行くとするか。」

 叔父さんは楽しそうに笑った。


 叔父さんは食べたことがあるんだね。

 世界をまたにかけた冒険者だからかな。

 きっといろんな美味しいものを知ってるんだろうなあ……。


 というか、ひょっとしたらヒルデにも臭いって思われてたのかなあ。うう、あんな可愛い女の子の前で、それは恥ずかしいよ……。


「ぼ、僕、その、家に帰ったらすぐにお風呂に入るよ!ごめん。夕ご飯の支度はその後に手伝うから……。」


 真っ赤になっている僕に、

「いや、のんびり入ってこい。

 支度しておくから。」

 と叔父さんは笑って言ってくれた。


 叔父さんも手伝ってくれて、浴槽に水をためてお湯を沸かす。普通はお湯を浴槽に貯めるやり方なんだけど、叔父さんが使ってるのは、他所の国で仕入れた、直接浴槽に入れた水を温められる仕組みを利用してるんだ。


 手早く服を脱いで、ゴシゴシと体を洗いながら、もう臭くないかな?と腕や肩の匂いをかいでみる。だいじょうぶそうだ。


 はあ……。来週ヒルデと顔を合わせるの、気が重いなあ。恥ずかしくて気まずいよ。

 浴槽につかって手足を伸ばすと、そんなことも忘れてしまいそうなほど気持ちがいい。


「ふう……。」

 浴槽のふちに頭をつけて、ふと、天井を見上げると、──え?だ、誰がいるよ!?

「うわっ!?」


「きゃあっ!?」

 ──バシャン!!驚いて思わず起き上がった僕に驚いたのか、天井にいた人が、僕の上に落ちてくる。


「いてててて……。だいじょうぶですか?」

 侵入者相手にも、思わず心配してしまった僕に、僕の上で体を起こしながら、だいじょうぶ、と言った相手。


「──リュ、リュウメン屋さん!?」

 しかも、男の子だと思ってたのに、お湯で濡れた服が肌に張り付いて……、薄っすらした肉付が透けて見える。この子女の子だ!!


 女の子はさっと腕で顔を隠すと、

「リュウメン屋?なにそれ、知らない。」

「いや、それは無理がありますって。」

 僕はあきれつつそう言った。


「姿を見られるとは……。不覚。」

 そう言ってお風呂場から逃げようとする。

「待って!なんで僕のお風呂を覗いてたりなんかしたの!?」


 初対面でお風呂を覗いてくるような人を、このまま帰すのは、なんか危険な気がする。

「お風呂を覗いていたわけじゃない。失礼。

 あなたを見てただけ。」


「バッチリ覗いてたじゃないですか!

 ……え?まさか、今が初めてじゃないってこと……?ひょっとして、僕の店の真向かいに店を構えたのも、その為に……?」


 無表情のまま顔ごと視線をそらす。

「なんのことだか分からない。」

 あ、うん。そうなんだね。これは。


「……なんで僕のことを見ていたの?

 僕は君と初対面でしょ?

 前から僕のことを知ってたの?」


「……言えない。それが任務。」

「──任務?誰かに頼まれたってこと!?」

 あ、という感じに、無表情に少しだけ口をあけている。天然なのかな?


「その人に、僕のお風呂を覗けって命令されたってこと!?」

 なにそれ、怖い。

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