第53話 あーんは恥ずかしい
「リュウメン3つ。おまちどうさま。」
「ありがとうございます。いくらですか?」
そういや、結局値段聞けなかったな。
「3つで銀貨3枚。」
「え?そんなにするんですか!?」
ミアちゃんが驚いている。
「日による。材料、仕入れ。だから時価。」
だから値段が書いてなかったのか……。
「はい、じゃあ、銀貨3枚。」
「まいど。」
「え?私たちの分もですか?」
「悪いよ、すぐに払うから。」
ポーリンさんとラナおばさんが、慌てて財布を取り出そうとしている。
「いえ、だいじょうぶです。
日頃のお礼に奢らせて下さい。」
僕が銀貨を差し出す時、男の子に手が触れた瞬間、男の子が無表情にビクッとする。
『アレックスさまと手が触れた。
恥ずかしい。でも、私が変装擬態のコバルトということは、気付かれていない筈。
問題ない。平常心。』
「でも、お金は払って貰ってるわ。
それは仕事だから当たり前のことよ?」
と、ヒルデが言う。
「でも、みんなが助けてくれなかったら、僕はこのお店をやれていないもの。
だからお礼と思って受け取って。そう考えたら、大した値段じゃないでしょ?」
「まあ、そういうことなら……。」
「ありがたく受け取ろうかね。」
「アレックス!僕のも少しあげる!」
ポーリンさん、ラナおばさん、ルークくんがそう言ってくれる。
「ありがとうございます。
ごちそうになります。」
ミアちゃんも嬉しそうだ。
「……ほら、一口食べるんでしょ?
先にどうぞ?」
ヒルデが恥ずかしそうにリュウメンをフォークですくって差し出してくれる。
え?じ、自分で食べられるけど……。
まあいいや。
リュウメンは、スープに浮かんだパスタのようなものだった。ズズッ……。
……?やけに店主の男の子にジロジロ見られてるなあ。なんだろ?男の子は僕がヒルデから一口貰うのを見た途端、注文も入っていないのに、新しくリュウメンを作り出した。
「お、美味しい──!!なにこれ!
お兄さん、これ美味しいよ!」
一口食べただけなのに、ちょっぴり汗が吹き出てくる。独特の香辛料がきいた味だ。
「良かった。嬉しい。」
無表情のまま、ほんのり頬を染めて、店主の男の子も嬉しそうだ。
「ほんとだ!すっごく美味しい!!」
「ミアばっか食べないでよぅ。」
「どこの国の食べ物なのかしら?
初めて食べるわね。」
ミアちゃん、ルークくん、ポーリンさんも美味しそうにリュウメンをすすっている。
「どこかの国で、スープに浮いたパスタを食べる国があると聞いたけど、ひょっとしたらそこの料理かねえ?ほんとに美味しいよ!」
ラナおばさんがそう言った。
「──リュウメンって、どこの国の料理なんですか?凄く美味しいですけど。
むごっ!?」
「美味しいなら、もっと……食べて。
一口じゃ分からない。
スープも飲んで。」
そう言って、僕の口にいきなりフォークですくったリュウメンを突っ込む。
あっつ!!!!!
冷ましてないから熱いって!!
「じ、自分で食べれま……。」
僕が深皿を受け取ろうとすると、その手を制して、再び食べさせようとしてくる。
「だめ。あーん。」
頬を染めた顔で上目遣いで見上げられる。
ええ……。
せめて冷まして欲しいよ……。
それにしても、この子可愛いなあ。
女の子みたいで、そんなに顔を近付けられたら、ちょっとドキドキしてきちゃうよ。
「美味しい?」
「お、美味しいです。
あの、お金払いますよ?」
「いい。気に入ったらまた食べに来て。」
「分かりました。ぜひまた来ますね!」
そう言うと、可愛らしい男の子は、嬉しそうにコックリとうなずいた。
『アレックスさまに食べて貰えた。嬉しい。
もっと食べて欲しい。どうして?』
「まだある。もっと……食べて?」
なんでそんなに僕に食べさせたいの?
「あ、あの、お昼ごはん食べてきちゃったんで、ぜんぶは、その……。」
さすがにお腹いっぱいだよ!
「そう。残念。残り、自分で食べる。」
そう言って、男の子はリュウメンをすすると、ズズッとスープを飲み干した。
あ、そこ、僕が口をつけたとこ……。
まあ、いいか。
『美味しい。いつもより。どうして?
ドキドキする。恥ずかしい。どうして?』
飲み干した深皿を手にしたまま、見つめている男の子。──どうしたんだろ?
「じゃあ、僕たちは行きますね。ご近所さんですし、一緒に頑張りましょうね!」
コクッ。男の子がうなずいた。
「頑張る。」
店主の男の子がうなずいたと同時に、リュウメンを求めるお客さんが殺到して、大騒ぎになってしまったので、僕たちは自分の店に戻ることにした。
「凄く美味しいかったわね!銀貨1枚は高いけど、また食べたいわあ……。」
ポーリンさんはうっとりしている。
「贅沢な外食としては、銀貨1枚は安いんじゃないかい?父ちゃんにナイショで、月に2回くらいは来たいねえ。」
ラナおばさんも盛り上がっていた。
市場の端っこだっていうのに、僕と店とラナおばさんの店、そして男の子のリュウメン屋さんで、人がごった返している。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます