第43話 ななつをすべしもの探し
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「……本当にだいじょうぶなのでしょうね。
スキルの持ち主がどこの誰であるかという情報は、教会だけの秘匿事項なのですよ?」
フードを被った男と、教会の祭司の服装をした男が、小声で話し合っていた。
辺りは薄暗いが、辛うじてお互いの顔が見える程度の明るさはある。
ここは王都にある、とある教会の地下だった。祭司はスキル鑑定に教会に来た子どもたちの、名前と所在地を一覧にした紙を束ねて本のようにした綴りを胸に抱えて言う。
この世界には神の祝福によりスキルというものが存在する。それは生きとし生けるものすべての魂に刻まれた能力であり、生まれながらにして必ず誰しもが持っているものだ。
それがたとえ魔物であっても。
魔物も等しく神に愛された生き物であるとする宗教と、人間だけが選ばれしものとする宗教が存在する。この教会は後者だった。
そして、その力を使って人々を助けることを生業としている者たちがいる。それが、教会の祭司という聖職者たちだった。
教会は、聖魔法や復活のような、神の御業とされるスキルを持っている者たちを、国中から集めていた。
その者たちを教会が管理することで、より教会の力を増すことが出来ると考えたのだ。
だがしかし、その考えは至極単純過ぎた。
一部の貴族や商人たちからの横やりが入った。自分たちの息のかかった者を、聖職者として送り込もうとしてきたのだ。
教会は国と対等な力を持つ組織だ。その中枢に自分たちの息がかかった人間がいれば、王族に強く出ることも可能になる。
教会は、それを断固拒否した。
そこで、スキルを鑑定する際に、どこの人間であるのかを調べることにしたのだ。
教会の寄付には税務申告がつきまとう。申告した際の身分証明と、教会への申告を照らし合わせる必要がある為、必ず事前申請をして許可が降りないと鑑定が受けられない。
所在と親が分かれば、派閥や関連する取引先などは簡単に割れる。教会に人が入る際は台帳と照らし合わせれば良い。
台帳に名前のない人間は、孤児を商人や貴族が引き取って送り込もうとしている可能性が高い。すぐに怪しいと分かるのだ。
貴族や商人が力を持つことを恐れた王族により、すぐさま法律が制定され、教会での鑑定は強制事項とされた。
だが貴族たちは諦めなかった。
既に教会に所属した後で、祭司たちを陥落する為、働きかけることにしたのだ。
この祭司は商人の出だったが、親が貴族を相手にしている商人であり、その取引を脅しの材料に、自身の出世を甘言に、スキル保持者のリストを要求されていたのだった。
「これを渡さなければ、どうなるか分かっていているだろう。逆に渡せばよいようにして下さるのだ。いい加減諦めろ。」
フードを被った男は、祭司の腕から強引に紙束をひったくった。
「……ななつに関連するスキルは、これですべてなんだな?」
「この1年以内に、という条件でしたらそうです。ですが、ななつ、という曖昧な条件が本当にそれであるのかは、私からはなんとも申し上げられません。」
「わかった。また何かあれば知らせる。」
フードの男が去って行き、祭司は早鐘をうつ心臓を胸の上から抑えながら、神よ……我を救いたまえ……と祈ったのだった。
「──スキルの情報は手に入ったか。」
「首尾よく。──ああ、俺にもエールを。」
「あいよ。エールひとつ!」
フードの男が教会を出て向かった先は、さびれた酒場だった。こんな場末の店には勿体ない若い美人の店員がいて、こんな時でもなければ、からかってはしゃぎたいところだ。
フードの男を待ち構えていた髭面の男が、紙束を受け取るとパラパラとめくった。
「……過去に7人しかいないスキル、7人兄妹の末っ子……。こんなんばっかか。」
「スキルそのものに7と入った者はいないと言っていましたよ。」
フードの男が言う。
「まあ、レベル7となりゃ、魔法スキルだけだが、そんなのは神獣レベルだからな、それこそ持ってたら即、勇者認定だ。」
髭面の男が言う。
「……そもそも魔法のスキルは、火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、闇魔法、聖魔法、回復魔法、生活魔法の8つだ。7つじゃねえ。
これで9だってんなら、これ以外の魔法の持ち主ってことになるが……。」
「召喚魔法とかですかね?」
「それでも7つにゃあ、当てはまらねえ。
なんなんだ、ななつってのは……。」
髭面の男が頭を掻きむしりながら言った。
「それでもこの中から、探し出すしかないんですよね。気が遠くなるや……。」
フードの男も言う。
「おえらいさんの命令だからな。
仕方がねえが、これがそもそも、数字の7つって意味じゃなかったら、こいつら全員空振りってこった。嫌んなるぜ。」
「命令する方は気楽でいいですね。」
「まったくだな。よし、手分けして明日からやろう。今日は前金で飲もうや。」
「いいですね。やりましょう。」
明日からの嫌な仕事を一瞬忘れる為にしこたま飲んだ2人は、その場で眠りこけてしまい、目が覚めたら紙束を含めたすべてを、全部盗まれてしまっていたのだった。
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