第40話 宝石の精霊

 僕は光の消えたペンダントの宝石を、手のひらの上に乗せてマジマジと見つめた。つついてみたりもしたけど、宝石はもう光らなかった。なんか変なことしちゃったかな?


 すると天井の方から声が聞こえてきた。

「──あなたが新しいマスターですね。」

「……え?誰っ!?」


 僕以外誰も入れない筈のアイテムボックスの中なのに、人の声!?まさか、このアイテムボックスの持ち主の人とか!?


 勝手に入ってたのがバレちゃったよ!

 どうしよう、怒られる!!

 ……あれ?でもでも、ここは200年前に生まれた人のアイテムボックスの筈だよね?


 持ち主が生きているなんて筈は……。思わず驚いて見上げると、そこには水色の長い髪をフワリと揺らしながら微笑んでいる、大きなタレ目の可愛い女の子の姿があった。


 こんなところに風なんて吹いてないのに、まるで下から風に持ち上げられてるみたいに髪の毛が浮かんで左右に広がっていてて、ユラユラと揺れているのが不思議な感じだね。


 瞳の色はペンダントの宝石と同じく、7色に変わって見えた。吸い込まれそうで不思議な目をしてる子だな。彼女はにっこりと微笑みながら、フワリ……と僕に近寄って来た。


 白いノースリーブのワンピース姿。スカートの裾がフワフワと風になびいてるみたくに動いてて、ちょ、ちょっと、あんまり近付かないで!パンツが見えそうだから!


「私はその宝石の守護精霊です。その宝石を持つ者こそ、私のマスター。運命に選ばれし者よ。私の加護を差し上げましょう。これから私があなたのことを守護いたします。」

 と言った。


「せ、せいれい?って、あの……?」

 僕は彼女の顔を見るようにしながらも、時折動いてめくれそうになるスカートに、どうしても目線をやってしまいながら答えた。


 キャベンディッシュ侯爵家の家庭教師の授業で聞いたことがあるよ。自然界には様々なものに守護精霊や妖精がついていて、まれに人を守護してくれることがあるって。


 加護を与えられるだけでも凄い事で、植物を育てる力や、人の怪我や病気を治す力、伝説級の武器を作る力なんてものを与えられた人間も過去にはいるらしい。


「マスター、私に名前を下さいませんか?」

 そう言いながら、小首を傾げる。サラッと水色の髪が揺れるのが、すごくきれいだ。


「マスターって、僕が?なんで?

 加護だけでも凄いことなのに、僕を守護ってどういうこと!?」


「私がお仕えしたいと思ったからに決まっています。あなたは運命に選ばれし人。その人を守護するのが私の役目なのです。」


 なんか凄いこと言ってるけど……。

「ぼ、僕、そんな、だいそれた人間じゃないし、悪いけどそういうのは……。」


「そうですか……。残念です。マスターに拒絶されてしまうと、私は消えてしまうのですが、仕方がないですね……。残念ですが。」


 可愛らしい女の子は悲しそうに言った。

「き、消えるって、ちょっと待って!?

 どういうことなの!?」


「私は人を守護する運命をかせられた精霊なのです。守護対象の信頼を失ったり、拒絶を受けた場合はその力を失います。精霊にとって力を失うということは死を意味します。」


「そ、そんな……。じゃ、じゃあ、わかったよ、お願いします!僕を守護して下さい!」

 僕はやけっぱちでそう叫んだ。


「はい……!マスター……。あなたの生ある限り、お守りいたします。」

 女の子は涙を浮かべて喜んだ。


 せっかく会えたのに、このままお別れなんて寂しいもん。僕が断ったら死ぬなんて言われたら、そりゃあ断るなんて出来ないよ。


「では、私に名前をつけて下さい。」

「前の人がつけた名前はないの?」

「その時々のマスターがつける決まりなのです。以前のものは覚えていません。」


 うーん……。持ち主が死ぬとリセットされちゃうってこと?そのうち僕が死んだら、僕のことも忘れちゃうってことなのかな……。


「それはそれで寂しいね。

 前の持ち主のこと、何も覚えてないの?」

 女の子は不思議そうに首を傾げた。


「とても優しく、私を大切に扱っていただいたことは覚えています。

 凄く気持ちが良かった気がします。もう1度、それを味わいたいと思うほどです。」


 え、えと……。前の持ち主は、この子に何をしたんだろうか……。

「マスターも、私を気持ち良くして下さいますか?私、なんでもいたします。」


 そう言って、女の子は僕の首にフワリと抱きつきながら微笑んだ。

「ま、ままままま、待って!!

 僕にはミーニャがいるんだ!!」


 女の子は不思議そうにキョトンとした。

「ミーニャ?それはなんですか?」

「僕の大好きな女の子の名前だよ。」


「ミーニャ、マスターの大切な人。

 ──覚えました。」

 胸に手を当ててニッコリ微笑んだ。


「あれ……?体が軽い……?」

 さっきまでの、階段を降りてきたり、重たいものを持った疲れが、嘘のようになくなっていた。ポーションを飲んだ時以上だった。


「はい、さっきマスターを回復しました。」

 女の子はニッコリと微笑んだ。

 さっきいきなり抱きついてきたのは、それでだったのか……!紛らわしいよ!!

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