第35話 アイテムボックスの海の探検

 わわっ!!

 あ、開けられるのかな……?

「お、お邪魔しまーす……。」


 僕のスキルなんだから、誰がいるというわけもないと思うけど、思わずそう言って、扉の隙間から、ちらりと中を覗いた。


「な、なにこれ……。」

 そこは不思議な空間だった。手すりのない長い長い光る四角い螺旋階段と光る扉。それ以外は薄暗くて底の方がまったく見えない。


 その階段の脇には、途中途中に別の扉があって、それぞれがうっすらと光っているのだけれど、かなり下の方まで見渡すと、ところどころが灰色で、光の消えた扉があった。


 段々になってるみたいに、扉のてっぺんが下がっているから、ひとつひとつの扉にたどり着くまでに、そこまで階段は下がらない。


「これが、時空の海……?」

 僕が願った通りだとすると、ここはたくさんのアイテムボックスのある場所、ということになるけど。


 別に海水どころか真水すらないし、いったいどのあたりが海なんだか、さっぱりわからなかった。


 すると、すぐに下の方に扉が見えてきた。

 下に行くにつれなんとなく見える、灰色の扉とは違った感じで、扉そのものが光って、更に隙間から白っぽい光が漏れ出している。


「あれはなんだろう……。」

 僕は恐る恐る階段を降りてみる。壁どころか手すりすらないから、階段の左端に寄ったら、そのまま下に落ちてしまいそうで怖い。


「こ、ここを降りるのかぁ……。」

僕は少し躊躇った後、意を決して、その螺旋階段を降り始める。


 必然的に扉側に寄りかかるようにして、落ちないように階段を降りることになった。

 1番上の扉までたどり着いて、僕は光る扉に駆け寄ると、思わず深呼吸をした。


「すみませーん!」

 と言いながら扉のドアノブを回す。──けど、ドアノブには鍵がかかっていた。

「開かない……。」


 鍵はスキルで出せないのかな?

 それか、イメージすれば開くもの?

 だってよく見ると、そもそも鍵穴らしきものがないんだもの。


 一生懸命イメージしてみたけど、まったく開くことがなかった。

 仕方がないので、思いっきり引っ張ってみることにした。


「んっ……!!んんん〜〜……!!

 うわっ!?

 ──いたたた……。」


 両手でドアノブを掴んで、力まかせに引っ張ってたら、スポッと手が抜けて地面に尻もちをついてしまった。


 肩が不安定な気がして振り返ると、頭が階段の外に出てしまっていた。

 こわっ!!落ちてたかもだよ!!


 僕は扉を開けることを諦めて、また階段を降りていく。次の扉も同じだった。

 何度かガチャガチャ回ししてみるけど、さっぱり開かない。


 誰もいない薄暗い螺旋階段を、こわごわとひとつひとつ降りていく。あまりに静か過ぎて、それが余計に恐怖を増した。


 カツンッ!カツンッ!と自分の足音が響く中、僕は恐ろしさに耐え切れず、

「だ、誰かいませんか〜?」

 なんて言いながら階段を降りていく。


 諦めて、また階段を降りて、次のドアノブを回して、開かないことを確認する。

 その繰り返しだった。


 僕はだんだんと、今はまだ開かないんじゃないかなと思って、とりあえず開けるのを諦めて、下に降りてみることにした。


 73番目の扉は今までのものとは違った。

 そもそも光っていないんだ。ドアノブを回してみると、今度はするっと開いた。


「光る扉だけ、開けられないのかな……?」

 扉を開けて中に入ると、魔道具も、ランタンも、何もないのにとっても明るい。


 中はまるで物置だった。

 そこそこ広い、ひとつの部屋くらい。

 そこに無秩序に色んなものが置かれてる。


 衣装箱のような木箱や、樽にツボ、布に巻かれた長い棒のような何か、小さな宝石箱。

 それから、壁際に積まれたたくさんの本。


 僕は目の前にある一冊を手に取った。

 表紙の文字は読めなかった。パラパラとページをめくると、そこには、見たこともないような文字が書かれていた。


「よ、読めない……。

 どこの国の文字なんだろ……。」

 外国の人の持ち物なのかなあ……。


「なんだろう、これ……。

 ずいぶんここに物をしまった人は、整理整頓が出来ない人だったんだなあ……。」


 僕はひとつひとつ、なにがあるのかを、持ち上げては、どかして確認してゆく。

 そこで、小さな宝石箱の中からおかしなものを見つけた。


「──あれ……?」

 以前父さまが、お祖父さまが亡くなられてから、失くなってしまったと騒いでいた、母さまの形見のペンダントじゃないか!


 おっきなルビーがはめられていて、昔母さまがお祖母さまからいただいた、お祖父さまが若い時に、お祖母さまにプレゼントしたという品で、キャベンディッシュ家の家宝だ。


 エロイーズさんが欲しがっていたから、プレゼントしようとしていたのに!と、父さまが騒いでいたのを覚えている。


 レグリオ王国の海への避暑旅行の時にも、確かに母さまが身に着けていたから、なんとなく覚えていた。多分叔父さんに見せたら、なおのことはっきりすると思う。


 なんでそれがこんなところに……?

「まさか……、ひょっとしてここって、盗賊のアジト……?隠し部屋とか?

 そこにつながっちゃったとか!?」

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