第36話 73番目の扉の中身
僕は慌ててあたりを見回したけど、部屋の中には、僕が入って来た扉以外に、入口らしきものはなかった。
──そもそも盗賊が、こんな大きな隠し部屋を持ってたりするものかな?
ここまで地下にのびる大きな空間を作れるとしたら、それこそ王族くらいだろう。
いや、待てよ、ここが時空の海の中だと言うのなら、スキルを持ってる僕以外は入れない空間てことだよね。
そして僕は、僕のスキル〈海〉で、たくさんのアイテムボックスを願って出した。
僕が魚群をイメージしたから、こんなにもたくさん扉が出てきたってことなの?
アイテムボックスは、本来1人にひとつ、付与されるスキルのことだ。
そしてアイテムボックスは、時空間魔法のかけられたものだと言われてる。
時空の海は、時空間の海ってことなのか!
──つまりここは、他人のアイテムボックスの中だってことなんだ!
僕が勝手に他人のアイテムボックスの中に入れたとしても、その中に人が入っているだなんて、持ち主はまず思わないだろう。
「なんだ……、じゃあ安全じゃないか。」
僕はほっとした。他人のアイテムボックスの中に入れるだなんて、凄いスキルだ!!
だけど、だからと言って、勝手に持ち出すわけにもいかないよね。使えるようで、使えないスキルだなあ……。
でも、これは母さまの持ち物だから、これだけは取り返してもいいよね。だって盗まれた物だもの。もともとうちの物だし。
他にもなにか盗まれたものがないかと思って、僕は部屋の中の荷物を確認した。
衣装箱のような木箱の蓋を開けると、懐かしい母さまのドレスが入っていた!!
ぜんぶエロイーズさんに取られたと思ってたのに!僕は思わず服を抱きしめて泣いた。
母さまのニオイがする……。
小さな頃に、母さまに抱きしめて貰った時を思い出していた。他にもなにかないかな?
すると……。
「え……?なにこれ、お祖母さまの、──肖像画……?なんだってこんなもの……。」
これもお祖父さまの棺に入れてあげようとして、見つからなかったものだ。
こんな物盗む?それも卓上サイズの小さなもので、ずっとお祖父さまの枕元の小さなチェストの上に置かれてたものだ。
名のある画家が描いたとか?
キャベンディッシュ侯爵家ならありうる話ではあるけど、それでもこんな大きさなら、大した値段にはならないと思うけど……。
続いて。
「うっわあ!!懐かしい!!
小さい頃に、お祖父さまに描いて差し上げた、僕の絵だ!!」
──これはおかしい。さすがにおかしい。
幼児の絵なんて誰が盗むの?
僕はそう思って、あらためてひとつひとつを確認すると。
「これ……、ひょっとして、ぜんぶ亡くなられたお祖父さまの持ち物なんじゃ……?」
知らないものもあったけど、見覚えのあるものもたくさんあった。
お祖父さまの持ち物ばかりを、こんなにもたくさん、キャベンディッシュ侯爵家から盗賊が盗み出すなんてことは不可能だ。
だって曲がりなりにも、屋敷には護衛の兵士たちが大勢いるんだもの。
つまりここって……。
「まさか……。
──亡くなられたお祖父さまの、アイテムボックスの中ってこと……?」
お祖父さまはアイテムボックス持ちだったの?そんな話は聞いたことがなかったよ。
でも、キャベンディッシュ侯爵家で必要とされるのは、魔法スキルだけだものね。
他にもスキルが付与されていたとしても、聞かれるなんてことはないから、そういうことなのかも。お祖父さまの鑑定に立ち会った人なんて、もう誰も生きてないだろうし。
アイテムボックスは時空間魔法がかかっているもの。中に物を入れた状態で持ち主が亡くなってしまうと、2度と中身を取り出せなくなるという話を、先日聞いたばかりだ。
「──ここは、誰かのアイテムボックスに入れる扉が並んでいて、生きている人のアイテムボックスの中にも、死んだ人のアイテムボックスの中にも、つながってる場所ってことなんだ……!!」
凄い!凄いよ!このスキル!!
つまり、灰色の扉が死んだ人の物で、光っている扉は、まだ生きている人が使っているから、開けることが出来ないんだと思う。
アイテムボックスは、スキルの持ち主しか関与出来ず、中身を取り出せない仕組みだから、持ち主が生きてる限りは、その人しか中身を取り出せないんだろうな。
だけど扉があるってことは、ひょっとしたら、いずれこの先スキルのレベルが上がったら、生きてる人のアイテムボックスにも、関与できるようになるのかも知れなかった。
僕は怖いのを我慢して、階段に腹ばいになって、階段の端っこを手で掴んで体を支えながら、頭を出して下を覗き込んでみる。
下に行けば行くほど、階段の明かりしかない感じだな。つまり、上の階ほど最近亡くなられた方のアイテムボックスで、下に行くほど、ずっと昔に亡くなられた方のアイテムボックスということなのかも。
戦争で亡くなられた兵士の遺品は、極力遺族にお返しするものだけど、大昔に亡くなった国や人のものは、誰のものということもない。だから僕の物にしても問題ないわけだ。
そうと決まれば、さっそく明日、ランタンとマジックバッグを買ってこなくちゃね!
流石に足元の光る階段と、扉の明かりだけじゃ、下まで降りるのは心もとないよ。
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