スキルの調査
第34話 アイテムボックスの海
「だから、家を出た当時は、武器も死体から剥ぎ取ったものを使っていたんだ。ダンジョンで死んだ人間は死体が消える。だから持ち物を奪ってもいいことになってるんだ。」
ええ?そうなの?怖……。
「他にも、大昔の遺跡や、親族が管理をしていない古い墓の中にあるものも、誰のものでもないから、貰っても問題ない。」
「へえ……。」
「こんな田舎じゃ、上級クエストなんて数が少ないからな、旅をしながら、そういう遺跡や墓を探す冒険者も少なくないぞ。」
「おじさんもそうやって手に入れたんだ。」
「ああ。最初に買ったショートソードしかなかったから、強い敵が倒せなくてな。偶然手に入れた強い武器が、双剣だったわけだ。」
「だから双剣を使ってたってこと?」
「ああ。だから双剣使いでもないのに、双剣を使っていた。そのうちに、ある日突然スキルが変化したのさ。」
「スキルが剣聖になってたの?」
「いや。そんないきなり剣聖になれたわけじゃあない。最初はスキルがレベルアップしたのさ。それから中級片手剣使いになった。」
僕のスキルと同じだ……。
「よその町に行くと、冒険者ギルドで冒険者登録証を提示して、間違いがないか、最初にスキルを水晶玉で確認するのさ。」
冒険者登録証が本人の物か確認する必要があるからな、と教えてくれた。他の町に行くたびに、そうして確認するんだって。
「そこでスキルが変化してたから、冒険者ギルドから理由を問われてな。
心当たりは片手剣使いのくせして双剣を使ってたことくらいしかなかったからな。」
叔父さんは懐かしそうに笑った。
「そのまま伝えたら、片手剣使いのスキル持ちが双剣を使うと、スキルが変化することがあるという、噂になったってことだ。」
「だからヒルデは片手剣使いのスキル持ちなのに、双剣を使ってたってことなんだね。
──いつか叔父さんみたく、剣聖になりたかったから。」
「おそらくはそうだろうな。
スキルの開放、と呼ばれるものらしい。
条件はいくつかあるが、それがなんであるのかを記された書物はない。
経験値だとか、ひとつのものを一定数使うだとか、まあ色々推測されてはいるが。」
叔父さんの場合は、ショートソードと双剣の経験値が、それぞれ一定数たまったから、とか?
僕の場合は、同じ魚ばっかり、たくさん出したから、とかなのかな。
でも、書物に記されてないってことは、確定事項じゃあないってことだ。
そんな、必ずおこるかも分からないことの為に、スキルのない双剣を使う人がいたら、それはとても馬鹿馬鹿しく思われるかも。
だからヒルデは言うのをためらったのか。
剣聖を目指して、そんなことをしてるなんて知られたら、他人に笑われちゃうかも知れないから。だけど凄い。それでもヒルデは、あんなに強いんだもの。努力したんだなあ。
……そうだ!僕もスキルがレベルアップしたんだった!帰ったら夜ご飯を食べてから、さっそく試してみようっと!!
夕ご飯を食べて、お風呂に入るまでの時間に、僕はレベルアップで新しく使えるようになった力を試してみることにした。
けど、そもそも時空の海がなんのことなのか、よくわからない。
時空の何かが魚みたいに、どこかに漂ってるってことなのかな?
何を出そうと願えばいいんだろうな?
時空って言われて僕が思いつくのは、時空間魔法だ。アイテムボックスには、実は時空間魔法がかかっていると言われてるんだ。
中に入れたものが腐らない仕様になっていて、それがアイテムボックスに時空間魔法がかけられているからなのだとされている。
アイテムボックスそのものが時空間魔法だとする説もあるけど、時空間魔法は時間を操ったり出来る特殊な魔法で、過去に聖女さまと勇者さまに使える人がいたくらいだ。
僕を教えてくれていた家庭教師いわく、魔塔で研究されてもいるけど、詳しい解明は、いまだなされていないみたい。
だけどひょっとしたら、時空の海のスキルは、たくさんのアイテムボックスが出せるスキルなのかも?今の心当たりで、想像して願えるのはそれくらいだ。
棚のようにアイテムボックスがあったら、それこそ便利だよね!魚も事前に入れておいて取り出せば、アイテムボックス持ちですって堂々と言い張れるようにもなるよね。
今は派手な演出つきのアイテムボックスって誤魔化してるけど、正直恥ずかしいから、普通に出せるようになるなら嬉しいな。
アイテムボックスを出したい。
アイテムボックス出てこい!それこそ、魚群のようにたくさんのアイテムボックスが!
僕は魚が出てくる時の扉が、たくさん目の前で開くのをイメージした。すると、僕の目の前が発光する。
思わず目をつむると、眩しい光の奔流に包まれていくのを感じた。
──やった!成功だ!!
目を開けると、そこには重々しい鉄の扉が立っていた。いつもの木の扉みたく、勝手に開くということもなかった。
まだ、なんか条件が足りてないのかな?
思わずドアノブに手をかけると、それは鍵がかかっておらず、するっと回った。
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