時空の海

第21話 視察と買い物

 僕は窓口で店舗を借りる手続きをすることにした。受付のお姉さんが料金一覧表を見ながら説明をしてくれる。見せて貰えないのは平民は文字を読めない人が多いからかな?


「地面に布を敷いた露天商が、10日で銀貨3枚、屋根付きが10日で小金貨1枚、店舗でひと月中金貨2枚からとなります。また、店舗はひと月単位でしか借りられません。」


「どうするんだ?

 数種類の商品をたくさん並べたいなら、屋根付きか店舗じゃないと狭くて厳しいぞ?地面に布を敷いた店は、大体1種類の商品をたくさんか、数種類を1つずつ扱ってる。」


「うーん……。じゃあ、屋根付きにします。

 どのくらい売れるかも分からないし。」

「そうだな、それがいい。」


 僕はとりあえず屋根付きをひと月借りることにして、市場でお店を出す際の注意事項について、受付嬢のお姉さんからいくつか説明を受けたあとで、中金貨1枚を出して、小金貨7枚のお釣りを貰った。


 場所の地図を貰って、場所の確認と買い出しがてら、叔父さんと一緒にブラブラとアタモの市場の中を散策することにした。


 地面に布を敷いた店は絨毯を売ってたり、アクセサリーなんかを売っている。屋根付きの店には、美味しそうな焼串や、珍しい果物なんかがあって、僕はお腹がすいてきた。


 食べながら歩こう、と叔父さんが提案してくれたので、一緒に焼串2本を銅貨6枚で買って食べたんだけど……。味、うっすい。


 流通が安定してるとは言っても、まだまだ塩は高いから、平民の口には入りにくいのかもね。素材そのままの味って感じだ。


 みんな美味しそうに食べてるけど、キャベンディッシュ侯爵家の味付けに慣れている僕からすると、ひどく物足りない。


 あとで塩を出して、振りかける用に小瓶に移して持ち歩こうっと。

 そう思って、露天商から小瓶をいくつか、ひとつにつき銅貨5枚で購入した。


 あとキャベンディッシュ家から、洋服は持ち出せなかったから、それも数着購入した。

 子どもの持ち物は親が貸してるって法律だから、父さまに権利のあるものなんだよね。


 欲しい物は基本おねだりして買い与えて貰えるものだし、洋服は出入りの仕立て屋がやって来て採寸してくれて、その中からデザインを選んで、お金が後から請求されるんだ。


 だから現金って初めて使ったよ。貴族の服を着て平民の服を買いに来る子どもなんて、放逐される子どもしかいないから、可哀想な子を見る目で見られて恥ずかしかったな。


 今着ている服は、支度金として父さまから貰ったお金で、平民用の服と、靴と、鞄を購入したもので、僕はこれのほかは下着数枚しか持って来ていないんだ。


 王都で買うとなんでも高いから、もともと残りの着替えは叔父さんのとこに着いてから買うつもりだったんだよね。ちなみに下着はマーサ手縫いの餞別の品だ。


 しばらくすると、地面に布を敷いた店で、女の子と小さな男の子の兄弟が魚を売っている店を見つけた。偉いなあ。お手伝いかな。


 着ている服装から平民だと思うんだけど、すぐに大きくなると思っているからなのか、体型に合わないブカブカの服を着てる。


 それもだいぶくたびれた感じだ。何度も繕っては着ているのか、少し妙なところがひきつれて、敷っ張られている感じがするね。


 でも、着ている子どもたちは、どっちもとても可愛らしい。お姉さんのほうはリアムよりも少し年下くらいかな?


 やわらかそうな茶色とも金色ともとれる、背中までのくせ毛と青い目をしている。将来お婿さん候補には困らなそうだね!


 男の子の方も、茶色のクリクリお目々で焦げ茶色の髪をした、とっても利発そうな子どもだ。だいぶ小柄で細いんだけど、やっぱりかなりブカブカの服を着せられていた。


 子どもたちの魚屋さんは大盛況で、次々とお皿やボウルを持った奥さんたちに、飛ぶように魚が売れていく。お客さんたちが注文している声で、魚の値段が大体分かってきた。


「はい、ロアーズ魚2匹で銀貨4枚だよ!」

「アローア魚3つですね?

 銀貨3枚と銅貨6枚になります!」


 ……魚、高っかいんだなあ。

 肉の焼串なんて、1本銅貨3枚なのに。

 というか、僕が最初に出したロアーズ魚、一匹で銀貨2枚もするのか。


 ここまで持ってくるのに時間がかかるからか、桶の中の魚たちはぐったりしていた。それでもあっという間に売れているのが凄い。


 そんなに種類も数もなかった魚屋さんは、一瞬で売り切れとなった。

「今日は店じまいです!

 来週また来るのでお願いします!」


 お姉さんのほうが声を張り上げている。

 やっぱりしょっちゅうは来れないんだな。

 だからあの値段でも売れるのかな?


 僕の魚のほうが新鮮だから、きっと飛ぶように売れるぞ!!

 屋根付き店舗の位置を確認すると、かなり中心街から離れた、一番奥の場所だった。


 正直あまり人通りがなくて、隣の焼串屋のおかみさんも、暇そうにあくびをしていた。

 こんなので生活が成り立つのかな?

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