クラスメイトの悩みは妙だ

 あれから、はるみは急に体調を崩して学校を休んでる。

 脚気っていう病気がひどくなって歩くのもしんどいみたい。

 ご飯も食べられず、ずっとベッドで横になっているという。


 あたしははるみが心配でお見舞いに行くことにした。


 インターホンを鳴らしたら、はるみのおばさんが出てきた。

「わざわざ娘のためにごめんなさいね。どうぞ上がってください」


 はるみは部屋の中で呻いていた。

 ベッドの周りにはマシキヨで買ったいろんな種類のビタミンサプリがある。

 でも封を開けて飲んだ形跡はない。

 あたしは顎の下までしっかりと布団を掛けて寝てるはるみに声を掛けた。

「はるみ。だいじょうぶなの?」

「ぬぅ、百合枝……いや、井塚殿! 心配には及びませぬ。どうぞお引き取りを」

「ちょっとすごい汗かいてるじゃない。身体拭こうか? 風邪ひいちゃうよ」

「滅相も無い! 私はその……殿方に見せるような身体ではない……胸も小さいし肉付きも貧相で……」

「何言ってるのよ! 女の子どうしでしょ? 別に恥ずかしがることないよ」



 汗を拭いた後はパジャマを交換し、また布団を掛けてあげた。

 はるみもいくらかほっとした様子で、あたしも安心した。


「ねぇ、はるみはこのまま陸上部どうするの?」

「江戸患いが治らぬうちは鍛錬どころではありませぬ。もはや、隠密もここまで」

「だったら演劇部に来ない? チョイ役でもいいからお芝居したら?」

「私のような雑兵ぞうひょう端役はやくがお似合い……笑ってくだされ」

「それってオッケーってこと? だったらみんなに相談するけど?」


 とりあえず、はるみは前向きに検討してくれるみたい。

 あたしは通学カバンから、お芝居のプロットが書かれたノートを取り出した。

「部活のみんなで話し合ってるうちに、せっかくだからってあたしの案を採用してくれたの。少し筋は変わったけど、王子様とお姫様が恋愛するスペースファンタジーにして、だけどちょっとシチュエーションコメディっぽくしてみたからさ」

「いえ、私は別に、芝居は……」

「王子様は敢えて台詞を無くして、不器用だから宇宙電波での交信でしか想いを伝えられないって役回りにしたの。はるみは背が高くてシュッとしてるじゃない? 台詞も無いから別にお芝居しなくてもいいんだよ。椅子に座っててくれればいいの。最初から最後まで、部員が話を進めるからさ」


「違います! そうではなく、私は!」

 急にはるみはベッドから起き上がる。

 あたしも凄い勢いだったからビックリした。

 無理に誘ってみたけど、やっぱり演劇はイヤだったのかな?


「私は井塚殿のようなおなごを武器にできる優れた忍びの者ではございませぬ。それでも自らが決めた道と歩んでいたものの、不意を突かれて命を落としました。どうか私のみじめな心中お察し頂ければ幸いです。せっかく未来で新しい生を受けましたので、これからはひとりの女子高生として静かに暮らしていきたい。あなた様の存在は私には眩しすぎます」

「え? 命を落として……未来に来たの?」

「左様です。井塚殿と同じく」

「うそっ! すごい、そんな物語みたいなことホントにあるんだ!」

「は? 井塚殿もくノ一で、御庭番衆では将軍様に御目見がかなう役職だったのではございませぬのか?」

「じゃあ、はるみは未来に転生してきたくノ一なんだ! 本物のファンタジーじゃないのよ! ねぇ、もっと江戸時代の事とか聞かせてよ!」


 あたしは興奮して何個も質問をしてみた。

 それでもはるみは答えてくれない。目をぱちくりしながら口を開けている。


「だあぁぁーーーーーーっ! 喋り過ぎた!」


 突然にはるみは頭を抱えて騒ぎ出す。

 そしたら布団の中から小さなナイフを取り出した。

 あたしは慌ててはるみの腕を握った。

「ちょっ、ちょっと! はるみってば! 秘密を知られたからってバカなことしないでよ! 早まっちゃダメだってば!」

「うむ、そうだな。早まる……って違う! 私じゃない、お前を斬るのだ!」

 はるみは凄い怖い顔をしてあたしにナイフを向けた。

「よもやここまで。私の秘密を知った貴様には死んでもらう。覚悟!」

「きゃあっ!」

 あたしは両腕を咄嗟に顔の前に出した。


 でも、何にもおきない。

 恐る恐る腕をどかしてみると、はるみはベッドの上に倒れ込んでいた。

「いかん、江戸患いが……」

「ちょ、ちょっ……はるみってば! しっかりしてよ!」


 あたしはペットボトルのお水を口に含ませると、ありったけのサプリをはるみの口に放り込んだ。

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