第64話
二十四時間がたち、作戦が決行されたユナは、イヤホンから流れてくるドローンからの音声情報をもとに、誰よりも早くパペットの軍勢がいるC地点にたどり着いていた。
マグネイシア東部までの到着は、作戦室のモニターの時と誤差がなく、予測されている進路とそこを過ぎる予定の時間通りにパペットの軍勢が到着した。
その数およそ二千。
一人で相手取るには、無茶苦茶な戦力差だった。
しかし、ユナのクロノスは…、
「ふんっ!」
おじぃの調整によりその出力を最大限発揮していた。
身体に早送りでレジストをかけたユナにとって、緩慢で単調な動きをするパペット達は果てしなくおそく、十体前後で襲い掛かってきても全く苦しい状況にならなかった。
「はぁっ!」
心配されていた硬装甲もクロノスで対応できるようにおじぃに改良してもらい圧倒していた。
「これで…、最後!」
「ギギギ…、、、」
最後のパペットをたたき、その瞳の色が黒色に落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ、よし」
約二千体のパペットの撃破時間は、約二分と三十秒。
まさに蹂躙、一方的なまでの暴力だった。
はたから見ればどっちが敵で味方はわからないほどに強化されたクロノスとユナは凄まじい力を持っていた。
「おじぃ、終わった」
イヤホンを片耳で抑え現状を報告する。
想像以上に早く終わったユナは、同時刻で中央のB地点にいるおじぃ率いる戦車隊に合流しようと連絡を取ろうとした時だった。
「⁉」
近づく足音。それは早く、速く、ユナが目の前を向いた時には眼前に迫っていた。
「早送りっ!」
瞬間で避けるユナ。横に転がりすぐに臨戦態勢に入る。
それは急ブレーキをかけて停止する。砂埃がまい全体像は見えないが、赤い二つのライトがユナをとらえていた。
「むっ⁉」
鼻先を血が滴る。ユナ自身、いつやられたのかも分からなかった。
だが、それよりも…、
「クロノスの早送りについてきた…?」
調整を施し、最高火力になったユナのクロノスの能力にそれは追いついて見せたのだ。
最大限の警戒をもって敵の方を向くユナ。
ぐぐっぐぐぐぐっぎgぃぃぃぃぃぃx!
再びそれはユナ向けて突貫。
それをユナはクロノスでいなし、早送りで対応し、再び距離ができる
そして、ユナの襲撃相手を今度こそハッキリととらえることができた。
「とら?ひょう?」
ががっぎgぃgぃgぃいぃぃいいいぃ!
目の前に現れたのはパペットと同じ硬装甲をまとったトラ。
別名――スクラップ・タイガー。
赤く光る相貌と迫力のある伸びた前歯。鋭い爪がユナの鼻先をひっかいたのか少し赤くなっている。
そして恐るべきは、その速度。
ユナの早送りに対応できるほどの身体能力を持ち合わせていた。
「ごめんおじぃ、少し遅れる」
そう言ってユナはイヤホンの通話機能を落とした。
「こいつはやばい…!」
これはここで始末しなければならないというユナの本能が働いた。
クロノスを構えるユナ。
――出し惜しみはしない!
禍々しい紫色の光がさらに強さを増す。
最大出力をもってスクラップ・タイガーに向かっていく。
がぎいががぎあぎあぎあggggggg!
「はっぁぁ!」
クロノスとスクラップ・タイガーの右爪がたたきあい火花を散らす。
耳障りな金属音が鳴り響き、ユナは若干のめまいを起こしそうになる。
スクラップ・タイガーはそこを逃さない。
力でもってクロノスを振りはらい、ユナがよろけたところに左爪で連撃を試みるが後ろに飛びきってそれをかわす。
しかし、
「ぐぐっ!」
不可視の三撃目。
長く伸びた尻尾がユナの腹部を撫でるようにたたき後方に飛んでいく。
「いったいなぁ…」
硬装甲でおおわれた尻尾からの強撃。
その速さに早送りを使っていたユナでさえ対応することができなかった。
「だけど…、いくらなんでもはやすぎる…」
戦いながらもユナはスクラップ・タイガーのその身体能力の高さに疑問をもっていた。
パペットとは比べ物にならないくらいの性能。
いくら機械といえど、機械行使であるおじぃが作ったクロノスを凌駕していた。
――ありえない…!
そう、ありえないのだ。
この国の人間の発明品でも、いくら人工知能をもつパペットといえどここまでの発達はありえなかった。
「一体なにが…、なっ!」
再び右爪による斬撃。集中力を欠いたユナには十分すぎる一撃だった。
早送りを使うものかわし切れず、爪の先が左肩を深くえぐる。
「ぁぁぁぁああ!」
だが、その時…、確かにユナは見た。
スクラップ・タイガーの胸当たりに位置する部位。
そこが禍々しいほどの薄紫に染まっていることを…。
「こいつ、クロノスと同じなのか…?」
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