第65話

 ぐgっぎっぐがががぎ‼ 


 目にも止まらない連撃に血が滴る左腕をかばいながら対応する。

 重症を負うユナはまさしく防戦一方だった。


 左手でクロノスを持ち替えようと試みたが激痛が走るためにそれを断念。

 結果、体力がすり減り時間だけが過ぎていく。所々に傷も増え、ユナの体は限界が見えてきていた。


 ――このままじゃ、だめだ…。


 ユナ自身の体力が減るのはもちろんのことだが、クロノスの力を消費しすぎたために、オーバーヒート寸前だった。

 加えて、スクラップ・タイガー自身の早送りによる身体強化…。


 「敵にしてみると本当に厄介だな…」


 うんざりする気持ちを抑えたユナは鋭い爪による連撃をクロノスで受ける。

 ユナの予測通り、スクラップ・タイガーはクロノスと同じ時間操作。

 機械行使であるおじぃの渾身の力作で、五大結剣にまでのぼりつめた時結剣クロノスと同じ力をその体に有していた。


 はじめはその能力の前に半信半疑でいたユナも、スクラップ・タイガーと戦いを続けるにつれてその力を確信した。


 ――だって私自身が一番よく知っているから…。


 それでも、今の現状ではユナになすすべがない。

 早くB地点のおじぃと合流しなければと焦る。


 もし、スクラップ・タイガーとがおじぃのところにもいたら…。

 そう考えるだけで背筋がゾッとする。


 結剣持ちのユナでさえ防ぐことでせいいっぱいの相手をおんぼろ戦車隊のおじぃ達が止められるわけがない。

 そして、焦る理由がもう一つ。


 ――ヨイチはまだなのか⁈


 作戦が決行されるときまでに、ヨイチはマグネイシアへと戻ることができなかった。

 クロノスの能力は一回切れれば再びかけなおすしかない。

 目的地まで最速で行けたとしても、同じ速度では戻ってこれないのだ。


 「ぅうぅ!」


 再びの右爪による強撃。

 左腕をかばいすぎた右腕は疲労の蓄積が著しく、重く、鉛のような感覚だ。

 当然受けきれることはできずにはじき飛ばされる。


 「ぐぁぁ!」


 そのまま、さらなる強打。わき腹をとらえた硬装甲のしっぽがもろに当たりミシミシと体が軋む音がなる。ユナが気づいた時には、空中に浮かんでいた。


 「こんの…‼」


 早送り対早送りでは通常の戦闘と変わらない。時間操作の最大の特徴が打ち消されている。

 そしてなにより…、

 「あっちの方が…、速い‼」


 無防備な空中からの落下。

 スクラップ・タイガーは下で待つことなくユナに向けて跳躍。

 その身体能力はもはやパペットの比ではなく、機械という枠組みを飛び越えていた。


 「これが人工知能の発達…‼」


 爪と同じく鋭利に伸びたその牙をもって、落ちてくるユナめがけて一閃。

 腹部を横一文字にえぐられたユナをそのまま地面へと降りぬき落とした。


 ががggっぎgっぎぎぎg!!!


 地面へとたたきつけつけられたユナにスクラップ・タイガーの雄たけびが聞こえる。


 その音は遠く、遠く…。


 「お…じぃ…、」


 ユナの意識は途切れた。

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