第60話

――急げ急げ急げ急げ!


 疾走するシェリーにしがみつきながら操縦し、目的の場所まで移動するヨイチ。

 マグネイシアからでた森の中の道を突き進んでいた。


 ユナの持つクロノスの能力、他者の身体が早くなる効果は、そんなに長くはもたない。


 間に合うかもしれないとマグネイシアから飛び出してでたのはいいものの、果たして二日で帰ってこれるかどうかも曖昧だ。


 だが、出たからには走り続けるしかない。

 マグネイシア東部を襲うパペットの軍団から救うには、この手を使うしかないと思ったからだ。


 ――彼の手を借りれば…、もしかしたら…、この戦況は覆すことができるかもしれない…。


 スカジの本当の能力を使えば、多分いまの東部に残る戦力の人数でも対処可能だろう。


 加えてクロノスを持つユナもいる。結剣持ちが二人いるということは、パペットの軍勢と対するには、相当なアドバンテージになるだろう。


 だが、アンはスカジを本当の意味で扱うことができていない。クロノスの真の力を発揮できないかもしれないユナもまた同等だ。


 そのことをスカジがアンに話していないのは、ウタタカ・タウンで話したときに確認している。


 ――今のままじゃ、確実にダメだ…。何も救えなくなる…。


 ヨイチの危惧はそれだけではなかった。

 おじぃが作成したマップの表記。赤いパペットの軍勢は、ドローンが映している部分だ。


言い換えればドローンが見えている部分ということになる。

では、見えてない部分ではどうだろうか。

本当にパペットの軍勢は二万だけなのか。

隠している部分があるのではないのか。

起動せずにしまっているものがあるかもしれない。 

隠れていたパペットがでてきたら、正直きびしい。

だいいち、敵の戦力本当にパペットだけなのか…。


未知数な人工知能との戦いだからこその脅威をヨイチは目の当たりにしていた。

残念ながらヨイチはほとんど力になれない。

パペットの超合金で作られた装甲は、ヨイチのハンドガンの弾丸をいともたやすく弾いてしまうだろう。

 たとえサポートに回ったとしても戦えないものは足手まといになるだけだ。


 ――だけど…、そのサポートをやらないわけにはいかない。


 アンが変わると決めたのだ。その覚悟を前にヨイチはなにも感じないわけがなかった。


 だからヨイチは飛び出した。


 ――走れ走れ走れ!


 シェリーは疲れを知ることなく走り続けている。ただただ、ヨイチの操縦に従って…。

 森を切り開いた道の先に…、小さな集落が見えてきた。


 ――たしか、ここにいるはず…。


 シェリーを止めて首をふりながらその姿を探す。

 集落の人に話を聞き、向かった田畑の先に…、彼の姿を見つけた。

 ヨイチは間髪入れずにその後ろ姿に声をかけた。


 「頼む!助けてくれ!」

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