第57話
「この東部領域以外の、北部、南部、西部は、すべてパペットの手に落ちた」
おじぃはタブレットに表示されている地図の、残っている青色のをさすりながら説明を続ける。
「東部以外の領域にいたものは…、おそらくじゃが敵さんに捕虜としてとらえれておる」
「じゃ、じゃあこの国の人間は…」
恐る恐る尋ねるユナ。おじぃは眼鏡に手をかけながらその問いに答える。
「スラム街と東部地区の護衛を合わせた約五〇人といったところかのう」
「そ、そんな…」
国民のほぼ大多数の姿が各地で紛争が起こるたびに消えていた。
普通ならば、遺体や遺品が戦いの跡地には残るものだが、跡形もなくすべてがなくなっているのを見るに、パペットにとらえられているのではとおじぃは推測していた。
「敵についての情報は?」
ヨイチはおじぃに的勢力についての説明を求めた。
おじぃは、作戦室にある大型のモニターを起動させる。
ウェイクアップ動作の後、おじぃの操作で複数の画像とともに詳細な情報が表示されている。
「これがパペットじゃ」
人形駆動機械―パペット。
表示されているパペットは人をモチーフにされた作りで、手足に節々がしっかりしてる。
全身が灰色でおおわれたボディは特殊金属が使用されており、剣による斬撃はおろか、弾丸さえもはじき返す硬装甲になっている。
攻撃手段としては鉄剣、弓といったものを使った古風な戦い方をするが、人工知能によって統率力が取れたその動きに、マグネイシアの軍勢や発明家たちの対パペット用製品はことごとく弾き飛ばされた。
そして、パペットの最大の武器はその軍勢の数。
「二万…」
数は推測であるがその配置数は、北部・西部に五千、南部に一万となっている。
「なるほど。南部には政府領土があるからか」
指令を飛ばす場所とそこにかける人員の考えは人間と一緒だなとユナは思った。
「おじぃ、これからどうする?」
今の国の危機的状況を目の前にして残された人々は、この偉大なる機械行使であるおじぃについている。
となると、今までの指揮はおじぃがとってきたのだろう。
その指揮官にユナは今後の動きを確認する。
「ワシらでは…、この人数ではもう何もできん。じゃが、じゃがこの国は…、捨てられんのじゃ!」
タブレットをたたき、自分の力不足を嘆くおじぃ。
そして懇願するようユナに言った。
「ユナ、頼む…、この国を…、この国を助けてくれ!」
ユナにつかみかかり涙ながらに叫ぶおじぃ。
もう自分には何もできないのだと、もうこの国の人々にはなすすべはないのだと…、そうさらけ出すようにおじぃはユナに助けを求めた。
五大結剣クロノスを持つ、ユナ・エリスに…。
ユナはおじぃの肩をそっとつかみ、安心させる口調で話す。
「大丈夫。私に任せてくれ」
「すまん、ユナ…」
ユナの両手をつかみなだれるおじぃから、ユナはヨイチ達に視線を移した。
「用事ができた。お前たちは先にネプトュームへ向かってくれ」
ヨイチ達の最優先事項はネプトュームへ向かってララナットと合流すること。
しかし、目の前で起きていることを無視できるほど二人は悪い人間ではない。
「いや、手伝うよ」
「そうです、ユナだけに辛い思いはさせませんよ」
『アラサーなんですから頑張ったら体を壊します。お手伝いしますよ」
ヨイチ達は、ほかの人よりもはるかにこの苦しみを経験しているから。
ほかの人よりもはるかにこの苦しみがわかるから。
国という故郷が…、侵される苦しみを…。
ヨイチ達の言葉にユナは泣きそうな困りそうな顔をして、それでもグッと我慢して…、
「ありがとう」
聞こえるか聞こえないかの声でそうつぶやいた。
それでも、確かにその声が聞こえたヨイチ達に少し微笑が生まれる。
「でもスカジはクソだな」
『なんですと!』
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