第56話

 機械工国・マグネイシア東部の地下に作られたシェルター。

 むき出しの鉄骨やコンクリートが急ピッチで作られてたことを物語っていた。

 あれからヨイチ達は、おじぃに詳しい話を聞くため、住民の避難場所兼作戦本部であるシェルターに来ていた。


 「おじぃ…、詳しく話してくれ。マグネイシアは今どうなっている?」


 おじぃから話を聞くために作戦室に通されたヨイチ達は、マグネイシアの地図が広げられた、大型のタブレットが内蔵している机を囲って座っていた。


 「先も言った通り…、この国は人工知能ロボット…、通称パペットに侵略されておる…」

 「なんで…、人工知能の製造は、アイ規定に守られていたはず…」

 「アイ規定ってなんですか?」


 聞きなれない言葉にアンが反応する。

 「アイ規定とはな…、人工知能を作る時に定められた基準なんじゃ、材料やプログラムを低基準に設けて作るように定めれた、この国独自の基準じゃ」

 「なんでそんな基準があるんですか?人工知能ってすごいものなんですよね?それを基準で縛る意味が分からないんですが…」


 合点がいかないとアンはおじぃにそう言葉を漏らす。

 「確かに人工知能は素晴らしい。このまま研究が進めば世紀の大発明になるじゃろうな」


 中央のタブレットを見ながらおじぃは話を続ける。

 「じゃが、その人工知能が人を超える危険性があったんじゃ…、だから、その未然防止として、この規定…、人工知能のAIからアイ規定を設けたんじゃ」

 「人を、超える?」


 よく意味が分からないといった風にアンは首を傾げた。ヨイチもアンと同じような気持ちになっていた。

 ただの無機物が人を超える。それはあり得ないと思っていた。

 どんなに高度なものでも人間がそれを制御するすべをもてば、そんなことは起こらないとヨイチは考えていたからだ。


 「そんなことが…」

 あるはずが、とヨイチが言おうとしたとき、

 「ありえるんじゃよ」

 おじぃはヨイチの言葉を遮って言った。


 「人工知能は…、発達するんじゃ」


 『発達って、人間みたいに成長するってことですか?』

 次に質問したのはスカジだ。


 「簡単に言ってしまえばそういうことになるかのう…。人を超えれば、ワシらより優れた発明品を生み出す。そう危惧したマグネイシアの国民と政府が満場一致でこのアイ規定に合意したんじゃ」


 「じゃあ、だったたら…、どうしたらこんなことが…、まさか、誰かが規定を?」

 「いんや、それはないのぉ…」


 ユナの推測をおじぃはすぐさま拒否する。

 アイ規定を破るということは国民を敵に回すということだ。そして、自分が発明した人工知能に近い将来、自分自身が抜かれてしまう可能性がある。

 それなら、おじぃの言うように、誰かが規定を破るということはないだろう。


 この国の人間は、発明に飢えている。


 自分が発明で得られる快楽を、自分の発明した人工知能にとられるのは許せないはずだ。

 そしておじぃは、まるで禁句を言うように、少しのためらいをもって、驚きの言葉を口にした。


 「おそらくじゃが…、スクラップエリアに廃棄された人工知能が発達して、パペットへと成長したせんが一番濃厚じゃのう」

 「なっ⁉」

 「え⁉」


 ユナを含めた全員が驚きを隠せない様子でいた。

 「驚くのも無理もないが…、現実がこの状況でじゃからのう…」

 おじぃがタブレットを操作すると、マグネイシアの領土が二色に変わる。どうやら現在の戦線の領域を分布しているようだ。


 「これがマグネイシアの現状じゃ…。悲しいがな…」


 赤が敵、青が味方。

 わかりやすいその表示は今の国の状況を的確に知らせてくれている。


 『色が…』

 「ほぼ赤一色じゃないですか!」

 

 タブレットには東部領域のみを青色に染めた、マグネイシアの地図が表示されていた。

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