第55話
閑散としたスラム街。
マグネイシアの東部に位置するここは、検問から少し歩いたところにあった。
ボロボロの家。転がる部品の数々。
ひときわ目立つスクラップエリアはそのスクラップがまるで塔を形作るかのようにそびえたっていた。
「ここにもいないのか…」
「なぜみんな消えたのでしょうか?」
『もしかしたら…、検問の護衛が通さなかった理由と関係しているのでは?』
ヨイチ達の中で憶測が飛び交う。が、ユナはその話が耳に入ってない様子だった。
「おじぃ…」
姿が見えず焦りの様子が隠せない。
先ほど、ユナがクロノスを見せたときに走っていった護衛のひとの姿も分からなくなっていた。
中々状況がつかめずにいたヨイチ達に声が聞こえた。
「おぉーい!」
「あれは…、」
「誰かがこっちに向かってきますよ」
声がする方を向くと、人が二人こちらへ向かっているようだった。
一人は先ほどの護衛。
もう一人は、黒ずんだ白衣に、天然パーマのかかった白髪。眼鏡をかけていた。
「おぉーい!」
「ユナ、あの人って…、」
アンがそういう頃にはユナはその人物に向かって走り出していた。
「ユナ!」
「おじぃ!」
アンたちの目の前に現れたのは、今回のマグネイシアに来た目的。
ユナの育ての親であるおじぃだった。
久しぶりに会った二人は、感動の再会までもう少しといったところで…、
「ぶべらっ!」
ユナがドロップキックをおじぃにかましたのである。
「どこにいたんだ。探したぞ」
「すまん、すまん。すぐ上にでれんでのぉ。だからって蹴ることはないじゃろうに…」
いてて、といいながらお腹をさすり、立ち上がるおじぃ。
その光景を見ていたヨイチ達は、
「仲いいんですかね?」
『アン様、これはある種のスキンシップなんですよ』
「スカジ、変なことを教えるな」
といった会話をしながら二人の再開を眺めていた。
「それで、そちらのお方たちは?」
ユナに蹴られたところをさすりながら、おじぃはヨイチ達に目を向けユナに尋ねる。
「いまの私の雇先だ。手を出すなよ」
「おぉー、そうかそうか、ユナが世話になっておるね。わしはこいつの育ての親でおじぃというものじゃ」
「本名なの?」
「本名だったんですか?」
『ふっ、おじぃ』
「違うぞ、私がそう呼んでるから、孫みたいなやつにはそう呼んでもらいたいだけだからな」
確かに姿だけ見ればヨイチやアンの年齢よりもはるかに年上なのがわかる。
なんなら、この中で一番年上のユナでさえも年齢の二倍は超えているんではなかろうかとヨイチは思っていた。
「ところでほかの人たちはどこ?」
ユナはここまでの国とスラム街の状況を確認するため疑問をおじぃに聞いた。
すると、そこまでにこやかな笑顔をしていたおじぃは急に真面目な顔になる。
「ほかのものはみな、地下のシェルターにおる」
「シェルター?さっきおじいが言ってた、上ってのが今の地上ってことか?」
「そうだ」
現在スラム街の人々はおじぃの言うように地下のシェルターにいるようだ
った。
「あの、この国で何が起こってるんですか?」
ユナの問いかけに沈黙するおじぃ。
下を向き、悔しそうな、苦しそうな表情をしている。
そして歯がゆさを含んだ声音でいった。
「戦争じゃ…」
「戦争⁉」
「なにと?それにこの国で?」
驚きを隠せない面々はおじぃの次の言葉を待つ。
そしておじぃは、ゆっくりと言葉を告げた。
「機械工国マグネイシアはいま、発達した人工知能ロボットに侵略されとる」
おじぃのその言葉に、ヨイチ達は愕然した。
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