第50話

鼻腔をくすぐるスパイスのこおばしい香り。


 ――何とも美味しそうな独特な匂い…、これは…!


 「カレー!カレーです!」

 そう言ってキャビンの中から飛び起きたアンはすぐさまその匂いのする法会と駆け寄った。


 「ほらね、匂いに寄ってきた」

 『アン様…、さすがに私もフォローできないです…』

 「まぎれもなく犬だな」


 アンを見ながら苦笑するヨイチ、なぜか哀れな声をだすスカジ。そして、アンの祖先が犬だと確信するユナ。

 そんなことには目もくれず、ユナはぐつぐつと煮込まれているカレーの前に張り付いていた。


 「も、もう食べれるんですか?食べていいんですか?」

 「アン、ちょっと落ち着いて…。ほらスプーンおいて!体調は大丈夫なの?」

 「はい!美味しそうなにおいがしたので、元気になりました!」

 「どういう体をしてるんだ、この少女は…」


 アンを見ながら若干引き気味になるユナ。

 すっかり元気になったアンを見るにやはりカレーにしたのは正解だったとヨイチは思った。


 調理は最終段階。

 お玉でぐるぐる回しながら、具材に味を染み込ましていく。

 そして、人参にジャガイモ、鶏肉に玉ねぎとカレーに定番の具材に、なすびやピーマンといった夏野菜が加わり、一層鮮やかになったカレーが出来上がった。


 白米に盛られたカレーは食欲をそそる匂いをだし、空腹の状態を作り出す。


 「いただきます!」


 出来上がったカレーをアンは、食べはじめた。

 「おいしい!おいしいです!さすがはヨイチさんです」

 「うん、ありがとう。でも今回はユナも手伝ってくれたんだ」

 「感謝して食えよ」


 アンにブイサインを向けながらユナは言う。

 興味深々で食材をのぞいてたユナに、ヨイチは手伝ってもらうよう頼んでみたところ、あっさりと承諾。


 野菜類をきったのはユナのだ。

 指を切りながら、時には玉ねぎで涙を流しながら、それでも最後までやり遂げたユナは、カレーの出来上がりを達成感に満ち足りた顔で見ていた。


 ――アンもそうだったな…。


それは初めてアンと焚火をしたとき。

その日に作ったのはカレーとよく似たシチューだった。

あの時のおいしそうなアンの顔を思い出しながら、今も幸せそうな顔でカレーをほおばるアンを見てヨイチの頬が緩む。


『なににやけてるんですか?気持ち悪い…』

「ほっとけ」


アンに量をセーブさせながら、ヨイチとユナもカレーを食べた。

 カレーは作り置きできるため、ヨイチはアンに全てを食らいつくされるまえに、回収しておいた。


 「聞いてもいいですか?」

 「ん、なんだ?」


 食後の腹休み。

 焚火をしながらゆったりとした時間が流れているときにふとアンはユナに質問した。


 「あの…、ユナって、なぜラティモスに入っていたのですか?」


 それは、ヨイチも気になっていたことだ。

 ユナという人間を知るには、重要な問いかけだった。


 「ん、まあ用心棒をするからには話しておこう。まだ自己紹介もちゃんとできていなかったからな」


 一つ咳ばらいをして、ユナは二人に向かって、改めて自己紹介をはじめた。

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