幕間3
第49話
「なんでこうも皆は操縦が不安定なんだ…」
『ヨイチ、早く怪我を治してください…。乗り物酔いがマジでやばいです。私、機物なのに…』
ヨイチ達一行は、新しく加わった用心棒であるユナの操縦のもと、温泉街・オオナムを出発した。
だが、スタートからユナが時結剣クロノスの能力「早送り」の身体強化をリザードのシェリーに付与した結果、尋常ではないスピードでシェリーが疾走。
次の目的地である機械工国・マグネイシアまでは、約一週間はかかると見込んでいたヨイチだったが一日で三割ほど進んでしまった。
単純計算でいけば、あと二、三日でつくことができるが…、
「む、なんでとめた」
「さすがにね…アンが限界かな」
「軟弱だな」
誰よりも先にダウンしたのはアンだった。
キャビンの中で飛んで、はねて、転がって…、最後は白目をむいて動かなくなった。
ユナ以外が全員行動不能になりかける前にヨイチがストップをかけた。
日も傾き始め、野営を始める頃合いだったためユナをとめたのだった。
このまま夜も同じ速度で走り続ければ確かに早く着くことができるだろうが、さすがに命がいくつあっても足りない気がしたのである。
――まさか…、ひとっ走りって一日でって意味だったのか?
ユナは、キャビンの上で布団の上に寝かされ、時々魚のようにピクピク動いているだけだった。
「と、とりあえず、今日はここで野営をしよう」
「分かった」
『助かった…』
そう言ってヨイチは野営の準備を始める。
ユナはというとシェリーと戯れていた。
アンの操縦ではあれだけ疲れていたシェリーは、ユナの時ではそうとは違い、今も元気いっぱいなのが不思議でたまらない。
その光景をチラ見しながらヨイチは、焚火の火を起こす。
井の字型に組み込まれた木々の中央にある細い枝たちに火をつける。
たちまち井の字の太い木々に燃え移り、すかさず空気を送りながら燃焼を助ける。
――この前は、アンと焚火をやったよな…。
キャビンに目を向けながらヨイチは初めてアンと野営をした日、一緒に火をつけたことを思い出した。
あれから少しの間にほんとうにいろいろなことがあった。
ウタタカタウンのバトルトーナメント、ダースの襲撃、アンの過去の告白に、ユナという新しい用心棒の加入…。
ヨイチ自身、濃い人生を送ってきている自身があったが、それに匹敵するくらいにアンに会ってから起こったことにインパクトがあった。
「火はついたのか?」
シェリーと遊び終えたのか、はたまた火に寄ってきたのか、ユナがヨイチのそばに立っていた。
「うん、これから夕飯を作るよ」
「あの少女は大丈夫なのか?」
さすがに自分の運転でアンの体調が悪化したのを心配してか、ユナはそう尋ねてきた。
「大丈夫だと思うよ。いまはしんどいかもだけど…、多分ご飯ができれば勝手目が覚めるよ」
「そんなに簡単に起きるのか?」
「多分…、においだけでも…」
「犬か…」
『ヨイチ、主人を動物呼ばわりされるのは許せませんが、それは私も否定できません…』
ユナとスカジの言葉に苦笑しながらヨイチはキャビンかユナを起こさないように食材を取り出す。
簡易式の調理道具とテーブルを広げ、夕飯づくりを始めた。
「なにを作るんだ?」
調理道具がおかれたテーブルの前にいるユナは、興味深々に並べられた食材を見ている。
「夏野菜カレーだよ」
アンを起こすにはピッタリの…、香ばしいにおいがするカレーをヨイチは作り始めた。
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