第44話
アンが過去とこれからを打ち明けて二日。
グレシャー帝国の情報を探していた二人に早くも問題が直面していた。
それは、ただ単に情報の少なさ。
鎖国国家であるグレシャー帝国は、地図から姿を消していたことをアンもヨイチも知っていた。
だが、その正確な場所はもちろん、直近約二、三年の国の内政を知らせる情報が全く出てきていない。
「…、さすがにおかしすぎますね…」
「一番最後に出た情勢を知らせる本にはアンの失脚とその内容しか書かれていないね」
温泉街・オオナムにある唯一の本屋で情報を探していた二人は机に資料と本を広げながらにらめっこしていた。
今ヨイチが手にしている本には世界の情勢が書かれている。
グレシャー帝国は情報を遮断する前に唯一その本にのみ情報を提供していた。
国の場所さえも…。
「ただこの本にグレシャー帝国の場所が載ってないとなると…」
「いよいよ分からないですね」
アンとヨイチが抱えた問題。
それはその本のバックナンバーにある地図からグレシャー帝国が完全に消えていることだった。
その本はおろか、ほかの記事さえも全てから消されている。
『ヨイチ、もしかすると』
「…、うん、誰かが消して回っている可能性があるね…。それもだいぶ前に…」
「そ、そんなこと誰が!だいいち国からは誰も出ることはできないはずです。それなのに国の場所を地図から消すなんて、出来るはずがありません!」
鎖国国家であるグレシャー帝国は、国内外の人の出入りも禁止していた。
ゆえに人は外に出ることができず、人は入ってくることができない。
アンが脱国するときに使用した密船を使って国外へ出たことがある人以外はほとんどの人が海を渡ることなくその生涯を終えるのだそうだ。
「なら誰が一体どうやって…」
『…!アン様、ヨイチ!警戒してください』
急にスカジが声を上げる!
「ど、どうしたのスカジ」
『覚えのある感覚が近くに…!』
その感覚は共感覚でアンのもとにも届く。
「…!この感じは、まさか」
「何があったのアン?」
状況を把握できないヨイチはアンに今起こっていることを聞こうとしたその時、目の前の扉が急に開いた。
「話は聞かせてもらった」
扉の向こうにいたのは二人が知っている顔。
「あ、あなたは…!」
「なんでここに?」
ただそれは、敵として知っている顔だった。
眠たげな眼にどこかあどけない口調。紫色の髪が特徴的な目の前の少女は身長はアンよりも少し低い。
以前の少女と違うのは隊服を着ているということ。
「いいことを教えてあげよう」
そして異彩を放つはその腰にある剣。機械的な造りに時計が埋めこまれた鍔は禍々しい雰囲気を放っている。
アンには見覚えしかないものだった。
ゆっくりと目の前に近づいてくる人物、それは…、
「地図からグレシャー帝国を消したのは私だ」
オークション会場でアンと戦いを繰り広げた少女。
五大結剣、時結剣クロノスの使い手、ユナ・エリスだった。
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