第43話

一息に全ての真実を言い終えたアンはそののどを潤すために紅茶をすする。


 「…、」


 ヨイチは何も言えなかった。何もかける言葉が見当たらなかった。

 だが、やっと彼女の暗く、黒い部分を知ることができた。


 その過去は壮絶で凄惨で…。

 ついこの間に起こったダースの件とは比較にならないくらいにひどいものだった。


 なぜ、人はこうも彼女を傷つけるのか…?

 なぜ、国はこうも彼女を貶めるのか…?

 なぜ、世界はこうも彼女を裏切るのか…。


 ――アンの人生に…、本当の幸せが見えてこないじゃないか…!


 そしてそれは、ヨイチ自身が許してはならないことだった。

 「…、アンはこれから…、どうするの?」

 「…、グレシャー帝国を見つけます…。そして、国民を、みんなが笑って、笑顔で居続けることができる国をもう一度作ること…。これが私のこれから。私の目的です」


 グレシャー帝国は鎖国国家となってから地図から完全に抹消されていた。

 孤島であるその帝国はどの地図を探しても、今ではその形を見ることすらできない。


 それでも、一度国民から、国から裏切られ、敵視されているあの貴族や王族たちがいるにも関わらずまた立ち向かえる彼女の精神力は、やはり最初にあった時から感じていた責任感からきているのだろう。


 ならヨイチの答えは一つだ。

 「分かった…。僕も手伝おう…。一緒に背負うって決めたからね」

 「…、ヨイチさん…。本当にいいんですか?まったく関係のない問題ですよ?本気で巻き込んでしま…、」


 「大丈夫!」


 その強められた語気にアンは少し驚く。穏やかなヨイチがそんな風に、怒りをあらわにするところをはじめてみたからだ。


 「大丈夫…、だから手伝わせてほしい…」


 すっとアンの前に手を出すヨイチ。

 「分かりました…、よろしくお願いします」

 その手を取り、二人は握手をする。


 満点の星空に照らされたヨイチの顔がなんだか泣いているように見えたアンは、震えているヨイチの手を、ただただ見続けることしかできなかった。


 「スカジの言った通りになりましたね」

 『だから言ったでしょう、ヨイチは乗ってくると…』


 自室に戻ったアンとスカジは先ほどのヨイチとの約束を振り返っていた。

 今後の方針はオオナムで治癒しながらグレシャー帝国の情報を集めることに決まり、明日から行動を開始する予定だ。


 アンは先ほどの会話から以前、黄色の花畑でスカジがそう言っていたことを思い出す。


 「…、なんで乗ってくるって分かったの?」

 アンは首をかしげながら尋ねる。


 『当然、可愛い子のお誘いには断れないからですよ』

 「…、うそ…。」

 『あら失敬な。私が嘘をついたことがあるとでも?』

 「大ありですよ!!」


 スカジの対応に少し腹を立てたアンだったが、今の気分は心なしかスッキリした気持ちだった。

 自分の過去。これを人に話すのは二人目だった。


 一人目はダース。

 身寄りのなくふらふらと旅をしていた自分をひろって、戦いを教えてくれた師。

 ダースに話すときはヒステリックになり、話をうまくまとめることができなった。

 それでも、最後まで話を聞いてくれた彼女は、涙を流し、抱きしめてくれた。


 ――師匠、どこにいるのですか?


 空を見上げる。

 かつての師が同じ星空を見ていると願いながら、アンは眠りについた。


 「…、見つけた…」

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