第25話

その日の夜。アンとヨイチは次の相手の作戦会議を行うためヨイチの部屋に集合していた。当然スカジも一緒にいる。アンの部屋着姿を見るのは二度目だが今回は水色の半そでに気温が上がっているせいか少し短めのズボンをはいている。


「じゃ、作戦会議を始めるね」

「はい!お願いします!」


こっちを向いてお辞儀をするアン。半そでの服は若干襟元が緩いのか目の置き場に戸惑うヨイチ。それでも今日勝って少し前のめりなアンのためにコホンと咳払いをしてまずは対戦相手の説明を始める。


「次の相手は音結剣・ミューズを使用するリーン。見たところによると音で相手を眠らせたり、悪夢を見させたりしていたね」

「物理攻撃ではなく精神干渉によると攻撃ってところですね。剣には弦のようなものがついていてそれをはじくことによって能力が発動するみたいですね」

『ほかの音による能力があるのも否定できませんね』

「一回戦同様、難敵になりそうですね」


スカジのいう通り別の能力があるのもすてきれない。特に身体能力を強化できるものであったりするこかなり厄介なものになるだろう。だがヨイチはこの相手に関しては勝ち筋を見つけていた。


「いや、そんなに難しい相手じゃないよ」

『はい、そうですね』


スカジもそれを理解しているようでヨイチに同意する。

「そうなんですか?」

アンはまだ合点がいってないようで対処法がわからない様子だった。

「アン、音はどこから聞こえると思う?」

「耳ですね」

「じゃ、音を聞こえなくするには?」

「耳をふさげば…、なるほど!そういうことなんですね」


本来、音というものは空気の振動として耳の中に伝えられ、その振動により内部の器官で最終的に信号として脳に伝えられる。

つまり、そもそも耳に入らなければどんな音も届かずに不発におわるのだ。


「あんなに精密なイヤリングが作れるんだ。耳栓くらい楽なもんでしょ?」

「はい!これで決勝の希望が見えてきました」


師匠と決勝で。賞金獲得の裏でアンが熱望している目標だ。

ちなみにダースも一回戦を突破。相手の能力を使わせる暇もなくかかった時間はわずか一〇秒。余裕綽々に宿に帰っていった。


「ダースが地結剣相手にどう戦うのか。楽しみだね」

「はい。師匠ならやってくれるはずです」

「じゃあ明日に備えて今日は寝ようか、疲れは取らないとね」

『では二人でここのベットを。私はアン様の布団で寝ますので…』

「お前とアンで一部屋なんだよ!お前ひとりにベットはデカすぎるし第一どうやって移動するんだよ」

『残念。せっかくパスしてあげたのに』

「そんなとんでもキラーパスはいらん!」


いつものようにスカジの戯言に付き合っていると扉の外からノックをする音が聞こえる。


――やばいうるさすぎたかな。


そう思っておそるおそる扉を開けるとそこには血相を変えたおじさんが部屋に立っていた。

「夜分失礼します。私はバトルトーナメントの役員なのですがアン様にお話があり参りました」

「私に?何でしょうか?」

ひょこっと扉の隙間から顔をのぞかせたアン。


「実は先ほどリーン様が何者かに襲撃を受けました!」


「えぇ!」

内容を告げられたアンは驚きが隠せないでいた。


「容体もひどく明日の戦闘は不可能と判断。リーン選手の不戦敗となります…」


なぜこのようなことが起きたのか、現在はわからないらしい。急ぎ捜査中だという。

街一番のお祭りの裏で闇が動き始めていた。

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